仰向けに布団に入っている状態で目をつむっているらしく真っ暗でした、
布団から出した右手には銃が握られていました、
依然目をつむったまま、こめかみに金属の感触を感じ、
事が起こった後のことを想像する時間は案外短く、
今思うにジェットコースターが上りきってから落ち出すまでの、
認識ままならぬ情動にそれはとてもよく似ており、
次には引金が引かれていました、
その後の事こそもう目まぐるしい一瞬でしたが、
思い出せるままに話します、
まずは恐怖に覆われました、
パニックとも言いましょうか、
目をつむった更にその内で強く目をつむり、
必死に顔を左へ背けている自分が見えました、
次に傷の痛みを意識しようと努めました、
金属片はこめかみから脳へめり込んだと思われるので、
痛みという感覚は無いのかもしれませんが、
何しろ経験の無いことなので恐る恐る感触を探しました、
見つけたものは軽い鈍痛でした、
先の丸い金槌でトンッと叩かれたようなイメージとよく合うものでした、
痛みとしては弱かったためか僅かに安堵したように思われますが、
それが言葉になるより早く熱を感じました、
頭蓋の中心、
いや、やや左下、
右側面近く、
いずれにしても全体的ではなく一部分から、
熱が広がっていくのを感じました、
温いと熱いの間のような熱でした、
そして、視界の外から闇が来ました、
鈍い暖色が薄い靄の掛かった黒に変わり、
(今思えば白い点が一つ、向うの方に見えていた気もします)
急に不自由を感じました、
体は勿論まぶた一つ動かすことが出来ず、
呼吸も出来ず、
更には思考も難しくなりました、
浮かべた言葉が虫食いに遭うような、
端々から道が崩れ落ちてゆくような、
道理が道理で無くなっていくような、そんな感覚でした、
残ったのは強いストレスと「嫌だ」と表す想いでした、
最後まで抗っていたようです、
何処に在るのかも分からない左手を動かそうとしていました、
頭の中を廻る様々な何かを汲取ろうとしていました、
そして全てが薄くなり、
反して黒は濃くなり、
終わりました、
終わった後には何もありませんでした、
引金が引かれてから終わるまで、
凡そ二秒半から三秒くらいだったろうと思います、
私は何の意見もいたしません、
ただその様だったと、
これを読む皆さんには未知のことでしょうから、
お話しようと思ったまでです。
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