マイビューティフルライフ
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最近ちょっと旗色が悪いなと思っていた。
俺様の名前は信濃三郎だ。関西の県議会の議員様である。
最近 外村という若い議員が政務活費を異常に申告した為、日本中で騒がれた。
おまけにちょっと情緒不安定な奴だった為、その席で号泣するフリまでしたもんだからさあ大変だ。
マスコミが押し寄せて重箱の隅をつつくような取材を始めやがった。
何の為に議員をやっていると思っているんだ。バカ野郎!。
知り合いの業者に情報を流したり、議会で昼寝をするためだけじゃねえんだぞ。
貰える金をもらって何が悪い。前世紀からやっていることだ。
あの後、古い議員が集まって”何で若い議員に指導しなかったんだ”と話し合った。
それまで毎月通っていた滋賀の風俗や京都の料亭にも行けなくなったじゃないかと不満が噴出した。
ほぼ毎日出張などといくら馬鹿な国民とはいえ、あまりに酷すぎた。外村はヘタクソだった。

とはいえ貰うものは貰っとくのが俺の主義だ。
今日も手下を連れ、京都の料亭にいた。
ここははっきりいって高級、要は貧乏人には逆立ちしても入って来れまいということだ。
さすがにここの領収はそのままの額では提出できない。
只、出し方ってのは色々と方法があるものだ。勿論、それは秘密だが。

ここは安物の居酒屋とは違う。全てが個室になっている。
どんな悪い話や儲け話だって出来る。
俺は 手下どもに”何故、政治家が偉いのか””何故、成功者なのか”延々と教えてやった。
高い酒と美味い魚に舌鼓しながら、俺は上機嫌だった。
勘定を終え、外に出るまでは。

いい気分で店の者に見送られながら外に出た途端だった。
店の中に入ろうとしていた外人とぶつかってしまった。
黒服の男が3人、その奥に老夫婦らしい2人。その中の先に歩いてきた黒服の男にぶつかってしまったのだ。
奥の老夫婦の夫の方が何かニヤニヤして言っている。
俺様にぶつかっておいて何ニヤニヤしていやがる!。俺は議員様だぞ!。
と思うが早いか、昔から手の早いやんちゃな俺だ。手が出た。
生意気な老夫婦の旦那の方をくらわしていた。
「外人野郎!ここは日本だぞ!偉そうにするな!」と吠えた。

すると屈強そうな黒服3人が止めに入った。というより俺様に危害を加えそうな勢いである。
手下どもも加勢し止めようとするが、俺様は近くにあった看板を振り回し叫んだ。
”俺様を誰だと思っているんだ!”

気分が悪い!飲み直しだ!俺は手下を引き連れ夜の闇に消えた。

次の日、俺は地元に帰ったんだが。
昼を議員会館近くのうなぎ屋で済まして、糞でもして帰ろうかなと思っていた。

うなぎ屋を出た所で黒塗りの大きな車が止まった。
中から昨日と同じような黒服を着た外人が二人飛び降りてきた。
いきなり俺を車に引きずり込んだ。
「何だお前ら!俺様を誰だと思っているんだ!!」と叫んだのだが。
いきなりの右フックで俺は沈んでしまった。
金目当ての誘拐か?俺の地位を利用した…?。

俺は拉致、誘拐されたのだが、その事件の報道は一切なかった。
まるで戸籍を消されたかのように。
元々、いなくても議会も別に困らないだろうが、家族からの捜索願も出たようには思えなかった。
外国人に拉致されたんだから、まして俺のような偉い議員様が消息を絶ったのである国際問題になってもいいはずである。


2014 08/07 17:56:51 | | Comment(0)
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文男は眠たくてしょうがなかった。
広告代理店で働き、フリーペーパーを作っている。
最近ではデータを送れば一日で4万部位その日のうちに印刷できる時代だ。
ところがその反面弱ったことに、締め切りを設けたところで客は平気で寸前に修正を言ってくる。
断れないところが小さな広告代理店の弱いところだ。
ということでほぼ3日徹夜状態にあった。

イラストレーターでデータ画像を修正していたのだが、キーボードを打ちながら気を失いそうだった。
このまま横になればどんなに気持ちいいだろう。

終わった。午前3時である。
データは送った。
「終わった」
ディスクの向こうのソファに倒れこんだ。
射精しそうな位気持よかった。

目が覚めたのは…、
飛び立ったばかりのジェット機の翼の上だった。

うわっ!!
風に吹かれ落ちた。このまま眼下に見える街に叩きつけられて死ぬのだと確信した。

ところが落ちた先は、アマゾンの川だった。
ワニやらピラニアやら毒蛇やらいそうな場所だ。鼻から入った水が脳を突き抜けた。
何に襲われても仕方なかった。

覚悟した矢先、ドン!という衝撃で目の覚めた場所は、今から合戦が起きようという時代の戦場の野原だった。
槍やら刀を持った武将が左右から走ってくる。
文男は串刺しにされる自分の姿を想像した。

次は共存しなかったはずの恐竜が闊歩する時代だった。
その次はインディアンに襲われた。
次は見知らぬ星から地球を見た。

文男は時代や空間をスリップし続けた。
何か神からの使命を帯びたのだろうか?それにしては脈略がない。
まるで意味の分からない旅に文男は疲れ果てた。

いくら疲れても脳がイライラして現実と夢の間を彷徨ったことはないだろうか?
文男は疲れすぎて リミットを振り切ってしまった。
最後は何も考えなくて良いトカゲになっていた。目の前のハエを追いながら。
2014 08/05 17:09:52 | | Comment(0)
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初めて会ったのに、他人じゃないような気がしたって事はないだろうか?。
それが思い過ごしであることも多いが、そうでないこともあったりする。

文男は30にもなるのに、女の子と付き合ったこともないチェリーボーイだった。
男には見栄をはり強がるのだが、異性に対してはからっきしダメだった。
文男は高校卒業後、建築会社に就職した。
建設業界は取引先や先輩、会社の慰安会など酒を飲まねばならない事も多い。
会社の慰安会や花見など女子社員もいるのだが、酒が入っても全くと言っていいぐらい話せない。
先輩に誘われ合コンにも参加したこともあったのだが、配膳係に終始した。
文男が普通に話せる女性は母親といつも来るヤクルト販売のおばちゃんだけだった。

「あ!10時だ。ヤクルトおばちゃんが来る」文男は同僚の竹田に言った。
「130円かしといてよ、あとで返すから」と後輩に頼んだ。

ブルルン。3輪バイクに乗ったヤクルトおばちゃんが来たみたいだ。
「お世話になりま〜す。」と入ってきたのはいつものおばちゃんではなかった。
年の頃なら20位?もっと若く見えるが。独身でもヤクルトレディは出来るのかな?(出来ます)
とにかくマズイと思った。
「谷口さんはどれがいいですか?」とこの世のものとは思えない可愛い声で聞いてくる。
「えっ?何で名前を?」
「ジャンバーに名前が刺繍してますよ。」と天使の笑顔で答えた。
「じゃあ、ジョアもらえる?」
「有り難うございます。はい、どうぞ」
しずくを拭いて渡してくれた手は白く小さい。
真っ赤になりながら受けとる文男。
しかし不思議だった。文男にはこの子は何を言っても拒絶しないであろう不思議な自信があった。
昔から知っている子のような…。
文男は思い切って聞いた。
「いつものおばちゃんはどうしたんですか?」(敬語だぞ)
「亡くなりました」予想も出来ない衝撃的な答だった。
他人では唯一話を出来る女性だった為、事の真相を確かめたかった。
無口な文男が若い子と話している、それは奇跡的でもあった。
急な脳梗塞で家族が気がついた時はすでに手遅れだったらしい。それで、この会社の担当がこの娘に引き継がれたらしい。

時間にして10分、いや5分位だったかも知れない。
文男はある予感があった。この子を逃したら一生女の子と付き合うことは出来ないかも知れない。

それから文男の涙ぐましい求愛活動が開始された。
まず、何があろうと彼女が来るまで社を出ることはなかった。あっても戻ってきた。
時間があれば彼女の環境を調べた。家族構成、職場環境、自宅の場所、男がいるのかどうか?
だが決して彼女の嫌がるやり方はしなかった。こっそりひっそり時間をかけ誰も気づかないように動いた。

彼女の名前は前田優子、年齢は24歳、母親は10年前に病気で死亡、父親との二人暮らしだ。
父親はサラリーマン。本人は普通の会社の事務員でもしたかったのだが、昨今の就職難と失業保険も失効したため取り敢えずセールスをしている。
持ち前の可愛さと元気、愛想の良さで順調に評価を得ているようだ。

一方、優子の方も朴訥な文男に何故か魅力を感じていた。優子も何かこの人は他人に思えない気がしていた。
となれば話は早かった。ドン臭い文男に対し、優子の誘いは間が良かった。
二人っきりで食事やデートにとまるで文男は優子の書いたシナリオにのせられているようであった。
会えば会うほど二人は運命を感じていた。
「私達は絶対、前世でも夫婦だったに違いないわ。」
「俺もそうだと思う。君以外の女が目に入らないんだ。」

幸福の絶頂だった。肉体関係はなかったがそれが逆に運命を決められている二人だから許せるのだと思っていた。

意を決し、文男は優子の父親に挨拶に行った。
暖かく迎えられ祝福された。何も問題がなかった。

次は文男の親に紹介する番だ。事前に女の子を連れてくる旨を両親に伝えてある。
母親はご馳走の準備に大忙し、父親も大喜びで隠していた日本酒を取り出し備えた。
許しが出るのはほぼ確定していたはずなのだが。

文男は居間でかしこまる父母に優子を紹介した。
親父の芳雄はどこかで見た顔だなと思った。どこだっけ?。
「優子さん、お家はどこかしら?」母が聞いた。
「産まれた時からずっと紺屋町です。」
紺屋町の前田?芳雄はハッ!!!とした。
「お母さんは亡くなったらしいけど お名前は?」変な質問をする芳雄??
「トシエです。」
芳雄は黙りこんでしまった。
「知っているの?」文男が聞く。
「いや、知らないよ」
それから和気藹々とした食事会になったのだが、芳雄は急用が入ったと出て行った。

家を出てきた芳雄は「困った事になっちまった」とつぶやいた。
紺屋町の前田トシエ、間違いない。おまけに一人娘だ。
20数年前、芳雄はトシエと懇ろになった。
相手の旦那や自分の女房にもバレてはいない。
おまけにトシエは秘密を墓まで持って行ったようだ。
子供が出来たのは知っていた、子供の出来なかったトシエは産むことを決心した。
その後、会うことはなかったのだが。
優子はトシエにそっくりである。
困った事に文男と優子は腹違いの兄妹ということになる。
何とかしなければ。

トシエが墓まで持って行ってくれた真実を俺は隠し通さねばならない。と芳雄は決意した。
というより女房にバレてはマズイ、子供たちに今更お前たちは兄妹だから諦めて平和に暮らそうよ、なんてことは言えるはずもない。

次の夜、ニコニコしながら芳雄は文男のアパートにやって来た。
元々、文男は自宅から通っていたんだが残業とか帰りが遅いため会社近くに部屋を借りていたのだ。
たまに母親が合鍵で入って料理を置いておいていてくれることもある。

芳雄が来るのは珍しい。なぜかキョロキョロと何かをチェックしている。
…優子が来た形跡はないな。とホッとした。

「今日はお前と親子の親睦を深めようと思い来た。」取ってつけたような怪しい言い分である。
ということで二人は夜の街に繰り出した。
奥手な文男に比べ、元来遊び人の芳雄であった。軽い足取りで雑居ビルに滑りこんでいった。
行った先は若い娘が10人以上もいるスナックパブであった。

20代〜30代の女の子だろうか、どこの店でも見るようなホステスさん達であるが、化粧を落とせば普通の女の子なのかもしれない。
芳雄はユリアという娘を指名した。派手で文男が最も苦手なタイプの娘だった。

実はこの女、芳雄と出来ていた、というより一度関係を持っただけだが。
芳雄は酒のそれほど飲めない文男にしこたま酒を飲ませた。
夜10時前に店に入ったもののすでに夜12時になろうとしていた、文男はカウンターに顔を埋め、ダウンしていた。
芳雄はユリアを呼び、ヒソヒソと何やら話し始めた。そして何枚かの一万円札を渡した。
毎晩、ユリアは12時で上がる。それに合わせ先に店を出た。
酔っ払った文男を支えて。
かすかに意識のあった文男をアパートまで送り、茶でも飲ませろと上がり込んだ。
勝手に飲むからお前は寝ろと文男を寝せ、寝入るのを待って玄関を開けたまま外へ出た。
外にはユリアが待機していた。
「後は頼んだぞ。」と芳雄は声をかけ去った。
「ラジャー!。」ユリアは部屋に入っていった。

床上手なユリアのことだ上手くやってくれるだろう。芳雄は呟いた。
何と芳雄はユリアに頼んで童貞の文男を誘惑させようとしたのである。
文男が優子に夢中になる原因の一つは女を知らないことだと思ったわけだ。
それでもダメなら2,3度関係を持たせた所に優子を呼び、現場に踏み込ませ、破局させる計画もあった。
フフフッと笑いを浮かべた。芳雄はクズであった。

しかし、計画は失敗する。
布団に潜り込んできたユリアに気付き文男は逃げ出したのだ。
そのまま、ユリアが帰るまで外で潜んでいた。

その後も芳雄は近所の年頃の女の見合い話を集めては文男に薦めた。
それは異常なまでにしつこい勧誘だった。
だが文男は首を縦には振らなかった。

そしてある日、芳雄は自宅に文男を呼んだ。女房が同窓会で留守をする時に合わせて。
文男がやってきたのは暗くなり始めた夜の7時くらいだった。
玄関を入ってくる文男の背後から芳雄は近づいていた。手に角材を持って。
後ろから殴りつけた、ボコッ!!文男は失神してしまった。
死んではいないよな…。と確認した芳雄は文男を真っ裸にし、逃げないように布団で簀巻きにした。
簀巻きにした文男を車に詰め込み、紺屋町まで走らせた。
簀巻きにした文男を優子の家の前に棄て、それを見た優子に幻滅させようと思ったわけだ。

只、優子の家の前の路地は車では入れない場所にあった。
歩いても10m位なので簀巻きにした文男を担いで運ぼうとした。その時である。
車を停めたすぐ横にパトカーが止まった。
芳雄はゲッ!と思った。
「ご主人、何をされているんですか?」職務質問をされている。
まさか、息子を簀巻きにして人の家の前に棄てようとしているとは言えない。
「ちょっと息子が具合が悪くて運んでいるんです。」と答えたが明らかに無理があった。
簀巻きにされた文男と共に芳雄は連行された。

意識を戻した文男が芳雄は父親である事と自分が具合が悪くて運んでいたと答えたため二人は解放された。

最近の父親の奇行に文男もおかしいと思い始めていた。そこで母親に相談してみる。
芳雄は女房に呼び出しを受け詰問された。
芳雄は答えようがなく黙秘した。

ある日、芳雄は消えた。
家の貯金全部を引き出し、書き置きを残して。
書き置きには、優子と文男に血の繋がりがあるということ、自分は罪滅ぼしに遠くに行きますと言うものだった。

母親と文男は衝撃的な内容に唖然とし、間違いなく芳雄は逃げたと確信した。

芳雄はフイリピンにいた。貯金も全部持って来た、しばらくここで優雅に暮らそうと思っていた。
1ヶ月位しただろうか、近くのレストランで働くミナという娘と仲良くなっていた。
お金持ちの芳雄は意外ともてたのだが、この娘だけははじめてあった気がしなかった。
運命的なものを感じていた。ミナも好いてくれたようだった。
ミナから実家で飯を食わないかという誘いがあった。この国では金持ちに親戚中が群がるという話はよく聞くが可愛いミナからの誘いだった。
家に着くとミナとミナの太ったのママが迎えてくれた。
何故かママは日本語が堪能だった。どうやら若い頃ダンサー(本人はタレントというが)で日本に来たらしい。
キクチ、ミヤザキ、シブシとか行ったらしい。キクチ?芳雄の父は熊本に単身赴任していた事があった。
キクチって菊池?という話からだんだんミナのママの表情が曇っていった。


2014 08/04 17:44:43 | ブログ日記  | Comment(0)
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宮崎市内から小林市に向かう途中に野尻という村がある。
国道沿いに怪しい公園はあるが、ほぼ山ばかりの手つかずの地である。
国道をそれてちょっと入るとバス釣りのマニアには有名な池がいくつか点在する。
只、行くまでが面倒なため人だかりになることはまずない。

空も晴れたある日、二人の男がその中の一つの池に居た。
ブラックバスを釣りに来たのだ。
ブラックバスは日本古来の在来魚を食い散らし繁殖する。
誰が持って来て放したのか、こんな山奥の池の生態系さえ変えてしまったようだ。

「釣れないな」と一人の男が口を開いた。
男の名前は谷口文男。車の修理工場で働いている。
「ん〜。そうだな。」
もう一人の男は原田知夫。電気部品工場の工員である。

二人して釣り以外これといった趣味もなく。文男は原田に誘われたので来ただけだった。
池まで車では入って来れないため途中からかなり歩いてやって来た。
そろそろ引き上げて、うどんでも食って帰ろうかと話していた。

とその時、文男の竿にあたりが。
「きた!」
これはデカイ!!なんていう引きの強さだ!。
「タモ!タモ!」と文男は原田に叫んだ。バス用のタモだと足りないかも?なんて期待をしながら。

それにしても竿が折れそうなくらいの引きである。
おかしい?巨大なまず??やがて影が見えてきた。
引きの割には小さい気がする?先が尖って見えたので、カマスか?池にカマスはいないだろ?
オマケに緑色に近い。

目が見えた!!!。げっ!?!。河童である。30cm〜40cm位の。
文男は狂喜した。
「河童が釣れたぞ!!」
確かに原田も見た。魚ではない、水かきを持った河童らしきものを!。

河童は死にものぐるいで目を剥きながら必死に抵抗していた。
その時だ。恐ろしいくらいのスピードで魚影が横切る。
まるでサメが釣れた魚を横取りにきたみたいだった。
しかし、魚ではなかった。それは1mを超す河童だった。
河童は水面から飛び上がり、文男の右手に噛み付いた。
驚いた文男は竿を離してしまった。
河童は大小二匹して水中奥深く、竿ごと消えてしまった。

一部始終を見ていた原田は、親ガッパが子河童を助けに来たんだと思った。
と、事はそれだけでは終わらなかった。

右手を押さえ文男がうずくまっていた。
痛いなんてもんじゃなかった。右手は食いちぎられたと錯覚するぐらいだった。
やがて右手は紫色に変色してきた。顔色も真っ青だ。
文男は意識を失った。

原田はあせった。河童に噛まれた奴など世界中探してもいないだろう。
毒があるのか?。爬虫類ではよく聞く細菌やバクテリアを口の中に持っている奴がいるらしい。
とにかく得体の知れないものに噛まれてしまった友人を担ぎ、車に急いだ。
良かった、携帯が通じた。救急車も呼んだ。

文男は小林市の救急病院に担ぎ込まれた。
原田は事情を聞かれた。
「河童に噛まれたんです!。」
どこの世界に信じる医者がいるだろうか?
「河童みたいな大きな動物、イノシシとか熊ですか?」医者は聞き返す。
「いや!池の中から現れて…。」
「毒蛇かなんかですか?」
そう言われると河童って普通いないよなって気になってくる原田だった。

文男の右手は3倍以上に紫色に膨れ上がっており、顔もむくみ、唇は血の気を無くしていた。
毒蛇に噛まれたんではないだろうかということで色々な抗毒血清が適合検査された。
しかし適応するものはなかった。
河童に噛まれて効く血清など全世界探してもないかもしれないが…。

事故から8時間になろうとしていた。抗生物質ぐらいしか手立てはなく、文男は全身が腫れ上がり、紫の土左衛門のようになっていた。
すでに文男の親族は集められ、医師から話を受けていた。
もうダメだろうということだった。

まだ原田も病院にいた。家族も事の詳細を聞きたがったのでありのままを話した。

文男の兄が口を開く。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、河童に噛まれて死にましたとは葬式では言えないな。」
「いくら馬鹿でもそんな馬鹿な死に方なんて」と母も嘆いた。

すでに最後を看取る為に家族は待機していた。
ところが干潮が過ぎ、再び潮が満ち、再び干こうとも文男は生き続けた。
しょっちゅうショック症状を起こし危篤状態に陥るのだが復活し続けた。
結局、仕事のある兄と父は母を残し病院をあとにした。
「死んだら連絡くれ」と。

3日もすると容態は安定してきたというより文男が目を覚ました。
土左衛門が突然目を開いたので集中治療室の看護婦は腰を抜かした。

肌は紫色から土色に変わり始め、まるでゾンビのようであった。
その異型さは不気味だった。まず頭部が4倍位に大きくなっていた。
それから1周間ぐらいは何とか人間かな?という感じだったのだが。

14日目の朝、文男は仰向けに横たわる息苦しさを感じていた。寝返りたくてしょうがなかった。
よいしょ!と裏返ることに成功した。うつ伏せになった。
えらく楽になった気がした。

ICUの看護婦は又、腰を抜かした。
そこに横たわっている文男はまるでオオサンショウウオそっくりだった。

やがて文男は粘液のようなものを出しはじめた。
ネバネバとした得体の知れない体液である。
仕方なくベットにはビニールシートがひかれた。
文男はすでに以前のような発作を起こしたり、痛みを感じることはなくなっていた。
どちらかというと爽快ですらあった。
そして不思議なことに文男のいる病室、ベット、シーツ等があまりにクリーンな特殊な衛生室のような事に注目された。
その原因は粘液にあった。いかなる菌であろうが死滅した。空気中の菌まで。
調査の結果、菌だけではなく病原体そのものも駆除してしまう事が判明。
ジェル状のその液は乾く事もなく殺菌力を持続した。医学界にとっても夢の発見だった。

だんだん変化していく身体を文男自身感じていた。
尻の辺りから尻尾らしきものが生えてきた時点で人として生きることを断念した。

1ヶ月になろうとしていた頃、ほぼ巨大なオオサンショウウオになっていた。
その頃になると立って歩くのは不可能だが這うことは出来た。(オオサンショウウオが二足歩行したら怖い)

母と担当医は話をしていた。
「多分、医療費が膨大な事になっていると思うんですが、高額医療費の申請って出来ますかねえ?」
「オオサンショウウオっていうことで天然記念物扱いは無理でしょうか?」
「多分、あの姿で修理工場は雇ってくれないだろうし、うちに水槽で飼うわけにはいかないし。」
と母が聞くものの医者も答えようがないようだ。
「実は非常に珍しい症例ということで東京の大学病院から引き継ぎたいとの話がきてるんです。」
「まあ、ここの病院ではこれ以上の治療は無理です。」
「只、世界的にも珍しい症例と医学会の大発見かもしれないあの粘液。その治療検査ということで医療費も控除する方向で進んでいるようです。」
母親は渡りに舟とばかりに承諾書にサインした。

文男はすでに言葉は話せない状態になっていた。(言葉が話せるオオサンショウウオは想像が難しい)
だが話を聞くことは出来た。頷くこともできた。
母親と医師から事の詳細は聞かされた。
文男は間違いなく自分は実験材料にされ、切り刻まれると思っていた。
もしくはガマの油のように粘液製造機にされるかも。

2m近いオオサンショウウオ化した文男は特別機で東京まで搬送された。
「もうすぐ着きますからね。」と付き添いの医師は言う。
うなずく文男。人間の言葉に反応するオオサンショウウオって世にも奇妙な情景である。
勿論、マスコミには以前から極秘にされていた。オオサンショウウオに変態した人間などマスコミの格好の餌食になるだけである。
研究の障害になるのは間違いない。

文男は狙っていた逃げる隙を。警備が手薄になるその時を。
そのために今まで従順なふりをし続けたのである。

大学病院についたその時、担架に乗せられ上からシーツをかけられていた。
そして、その時は訪れた。
車から担架が降ろされ、動かぬようロックがかけられた。その後、数秒間ではあるが職員が担架から目を離したのである。
茂みに素早く逃げこむ文男の尻尾を職員が発見した時はすでに遅かった。

文男は死物狂いで逃げた。勿論、はってだ。途中、下水道に潜り込んだ。
一目散に奥へ奥へと突き進んだ。
どれだけ逃げただろう、行き着いた先、そこは変な匂いのする下水道というよりも綺麗な水が流れる大きな導管の中だった。
2014 08/02 18:35:27 | ブログ日記  | Comment(0)
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いくら夏で日の暮れるのが遅いとはいえ8時になるとすでに暗い。
クタクタになりながら階段を登り4階にある自分の部屋にたどり着いた。
いつものように部屋の明かりをつけ、カバンをおろそうとした。
「うわっ!!」俺は悲鳴を上げた。

部屋の中央に老婆が正座をして座っていたのだ。
小柄な老婆で和服を着ている。だが明らかに見覚えがあった。
それは30年前に死んだ祖母だった。

思い当たる節はあった。子供の頃散々”くそばばあ”だの”飯がマズイ”だのひどいことをいっぱい言った覚えがある。
間違いなく復讐に現れたと思った。
50年以上生きているがそれまで幽霊など見たこともない。いることさえ疑っていたのに…。

呆然とする俺に対し祖母はぼっそりと言った。
「ヨシコがひどい…」
はあ?ヨシコとは多分、恐らく死んだ母の事だろう?
母と祖母は実の親子である。
「母ちゃんと喧嘩して出てきたのか?」と俺は聞いた。
それには一切答えず「じゃあな」と一言残し消えた。

何のために化けて出てきたのかさっぱり分からなかったが、途中で話を切り上げバックレるのは昔からいつもの祖母の行動であった。
取り敢えず俺は死後の世界があることに何か安堵の気持ちを覚えていた。
それがいけなかったのかもしれない。

翌日、やはり同じ頃部屋に帰り明かりをつけたのだが。
「うわっ!!!」俺は又、悲鳴を上げた。
今度は白髪で坊主頭の老人が座って頭を掻いていた。
「しまったねえ…。」
この老人も間違いなく見覚えがあった。死んだ祖父である。
祖父はいつも小さな事でも弱ったとクヨクヨと頭を掻いて悩む癖があった。
あの頃のままだった。
「何がしまったんだ?」俺は聞いた。
その話は長くなるので要約すると、あの世で祖母と母が喧嘩して、あんまり現世に現れてはいけないのに祖母が何も考えずに化けて出てしまった事らしい。
なら出てくんなよ!と言いたかったのだが、何でも現世で出た場所は一度出ると出やすくなるものらしい。
全く迷惑な話だ。
話の解決もないまま言いたいことを話すと祖父は消えた。

2日連続の衝撃サプライズだったが、明日の仕事もあるため俺は何も考えず寝ることにした。
その夜の深夜の事である。

うわあ!!!幽霊が暗闇の中で俺の顔を見つめていた。
と同時にドッタン!バッタン!部屋中に物音が鳴り響く。幽霊は存在は薄いのだが伴う物音は異常に響く。
親戚のじいさん、ばあさんと祖父母の死人が4人も現れやがった。
話し合いを始めている。いい加減にしてくれと思った。
「幽霊の話し合いなら富士山の山頂か阿蘇の火口ででもやれ!」と俺は叫んだ。
「ひどいこと言うね。そんな所に出たらお祓いされちゃうじゃないか。」
ってそうなの?
何が議題なのか?これも話すと長い為、要約すると。
死んで30年経つのに墓参りにもこない親戚夫婦にバチでも当ててやろうかと話していた祖母に対し、今も母の悪口を言っている隣のオヤジの方が先だと言ったらしい。
一緒にすることは出来ないの?と聞くとあの世にはあの世の倫理があって簡単にはできないらしい。
まあしょっちゅうバチがあたれば大変だろうが。

「あ!それからね。あの世の人が見え始めるとこれからどんどん見え始めるよ。」ってゲッ!そんな能力いらないのだが。
「まああの世はこの世の延長だから、心配ないよ」…らしい。

まあ知った顔ばかりなので、勝手にしてくれといった感じで自分は寝てしまった。

朝起きると何もなかったように皆消えていた。あの世に帰ったのかな?

その夜帰ると、部屋の鍵を開ける前から奥が騒がしい。家主のいない部屋で幽霊たちは何を騒いでいるのだろう?
俺は部屋を開けた。
唖然とした。10人ぐらいの幽霊が宴会をして酒を飲んでいた。
俺の机やパソコンは隅っこに片付けられ、カラーボックスを倒し、ちゃぶ台にして料理まで並んでいる。
案の定、俺のマイボトルも開けられ、冷蔵庫の中にあった食材をほぼ使いきっていた。
やがてふ〜っとよく知らないおじさんが鯛の尾頭付を持って現れた。「新鮮な魚、刺し身にするがお前も食うか?」
あの世から持ってきた鯛が新鮮な気はしないのだが、っておいおいうちの狭いシンクで鱗を剥がすつもりか?
バシャバシャいいながら鯛を捌き始める。もうすきにして!俺は諦めることにした。

祖父の持ってきた焼酎霧島の白を飲みながら酔っ払ってきた幽霊たち。
俺は聞いた。「あの世ってどこにあるの?」
「あの世はどこなんだろうな、死んですぐは親戚のおじさん3人が迎えに来てくれて連れて行かれたんだが。」と親戚のおじさん。
「えらく遠くだったな、どこまでも続くトンネルみたいだった、宇宙の向こうなのかな、よく分かんねえな」
って今いるところだろと突っ込みたかったのだが、話しっぷりからして隣駅の裏山とか海外の南の島とかそんな3次元な感覚ではないようだ。
「でもよく出てこれるよね?」と聞くと。
「出てくるのは簡単だよ。出たいと念じれば出れるところだと出れる、出れない場所もたくさんある。」
「ところで何で宴会してるんだ?」と聞いた。
「お前の母ちゃんとばあさんが仲直りしたのとお前にバチをあてることに決定したから」と爺さん。

へえっ?何だそれ!。
「お前、散々やりたいことやって離婚はするし借金は作るし、我慢してサラリーマンしてたら間違いなく地位も名誉もお金も家族もあったのに、忍耐力がないもんだから全部棒に振っちまった。」
「だからバチをあてることにした。」
全くおっしゃる通りで反論の余地もないのだが。一体どうしようと?
「子孫の中でも稀なぐらい幸運や出会いに恵まれながらそれを無駄にしてきた家系随一のバチあたり者なのだが、只、その分ひどい目にもあっている。」
「おまけにバチがあたりすぎて日常の出来事くらいに思っていやがる。」
「それでバチをあてるのはやめた。時間の無駄だ。」
そこで出来の悪いお前にあの世の存在を教えてやることにした。
その時は、よく言っている意味が分からなかったのだが、その後俺の運命を変えていく。

それから連日連夜、幽霊たちの宴会が続いた。俺のアパートは2間しかないのだが、この幽霊たちに1部屋は占領された。
毎日、見ていると全く怖くもなくなってくる。一度、すごい形相で現れた親戚のおじさんには腰を抜かしたが、驚かすためのイタズラだったみたいで大笑いされた。
色々興味のあることもあったので聞いたりもした。
「人を殺したり悪い事をした人ってどうなるの?」
「一概には言えないな。死んですぐひどい目にあう奴もいるらしいし、何か復讐したくても会えない人もいるらしい。」
「地獄もあるかもしれないし、ひょっとしたら天国みたいなところもあるのかもしれない。」
「言えることは死んだ時の考えや状況ってのが深く関わっている気がするよ。」
「未練や心残りなんてない方が不思議なんだから、よっぽどでない限り私らと同じだと思うよ。」
イエスや釈迦とは会ったことあるの?
「ないな。いるらしいけど次元が違うと会えないって話もある。悟りを開いた人は生まれ変わる必要がないらしいが、生まれ変わったって人もいる。」
「まあ、情報的にはあの世もこの世と同じで眉唾ものだ。」

そう言えばこんなことも言っていた。
「お前のオヤジはクズだな。女房が死んでから飲み屋通いに始まり、昼間のカラオケには毎日、時間があればパチンコ、帰れば時代劇を見ながら酒呑んで、煙突のようにタバコを吸っている。
「遊びにしか興味のないガキがそのまま老人になっている。結構あった金ももう使い果たしそうだ、今度は家を担保に遊ぶ金作る気だぞ。」
「ほとんど分かっているよ。でもなんでバチをあてないの?」と俺。
「あいつ側の姉さん達が今でもアイツを可愛がっていて何かと今でも助けているんだ、あいつ末っ子だから。」
なるほど。それで胃潰瘍、心筋梗塞、糖尿病になっても酒タバコをガンガン呑み、なおも元気なんだな。と俺は思った。
「まあそれだけじゃなく一病息災でまめに病院に行って、元々臆病者だから注意しているのが大きいがな。」
「おまえの母ちゃんは生きてた頃から予想していたらしく、やっぱりなと言っているよ。」

そのうち、毎晩物音がうるさいと近所から苦情がでた。
独り者が夜中に何してるんだと気味悪がる声も上がった為、幽霊にその旨を伝えた。

「悪かったな、出やすいもんだからつい溜まっちまった。」
「じゃあな、元気でな。」
とあっさり消えてしまった。

その後出てくることはなく、何となく寂しい気にもなっていたのだが…。
一番会いたかった母親には会えなかった。

まあ そのうち俺も死んであっちに行くからその時でも話せばいいやと思っていた。

ある夜、TVを見ながらぼ〜っとしていたのだが。
突然、背後にワーワー泣きながら老人が現れた。
久しぶりの出現にビックリはしたのだが、何故泣いているのか聞いてみた。
「3ヶ月前に死んだばかりなのですか屋根裏に隠した骨董にまだ娘達が気づかないんです。古い家なので建て替えようとか言っているので、そのまま一緒に潰れてしまわないかと心配で。」
「なら娘さんのところに化けて出ればいいじゃないですか。」
「ダメなんです。チャンネルが合わないんです。」

チャンネルって何だ?つまりはこうらしい。どこでも出れる訳でなく、出れたとしても普通見えないらしい。見えたとしても言葉が聞き取れないらしい。
波長が合うか合わないかのようなものらしい。まあ、どこかしこ幽霊が出没すれば怖いだろうし。

「で、どうしろと?」
「娘に聞いたことを伝えて欲しいんです。」
老人の幽霊は細かに娘の住所、名前を教え消えていった。

初めてのことだった事もあり、俺は興味を持った。
本当なら凄いことだ。
俺は聞いた住所まで行ってみた。老人によれば住んでいるのは普通の一軒屋で借家らしい。そこで老人の住んでいた家を壊し、新しく家を購入する計画らしい。
小さい子の乗る三輪車が置いてある。子供がいるんならちょっと狭いかもなんて思いながら。

「こんにちは。私、谷口と言うものなんですが。」
はあ?出てきた女は、セールスマンにしてはラフなおじさんが何の用だろうって顔をしている。
事の経緯を話した。死んだお爺さんは、生前、骨董に興味があって買ったのだが本物かどうか自信がなく屋根裏に隠していたこと。
急だった為、死ぬ前に伝えられなかった事。壺と掛け軸だけで約1000万位使ってしまった事。家を壊す前に伝えたかったと。
死んだ経緯や時間や場所など間違いないのだが、相変わらず怪訝そうな女。
俺はだんだん頭にきた。善意で教えてやっているのに関わらず何だこの態度は!。
俺は一連の話を終え、「まあ信じる信じないは自由です。私の携帯番号、住所氏名をこの紙に書いておきます。どうぞ自由にして下さい。」とこのいけ好かない女と別れた。
なんといってもこちらには間違いないであろう確信があった。
少なくとも屋根裏に壺と掛け軸は絶対にあるのだから。

何日後かは覚えていないがTVを見ていたら、あの女が出ていた。
何でも骨董品を鑑定する番組らしい。
変な中国の壺みたいなものを持って出てきた。
ある雨の日、不思議なおじさんがやって来た。死んだお父さんが現れ、屋根裏の壺の事を伝えて欲しいと頼まれた為、来たとのこと。
もしやと思い屋根裏を探すとあ〜ビックリ、壺や掛け軸、皿などが出てきたとのこと。
ちょっと脚色されていたが、ほぼそのままである。
そして鑑定額がエンディングのロールに合わせ出てきた。一、十、百、千、万、十万、百万、千万…!!。
なんと3000万の値がついた。小躍りする女。

と!俺は背後に気配を感じた。
例の老人が又、泣きながら手を合わせている。
「有り難うございます。これで思い残すことはありません。やった〜、3000万だ!。」
そして消えた。
相変わらず男は馬鹿である、あの世に行っても持っていけないのに壺なんかの値段に喜ぶ。
TVを見ていると、女は言った、即売って家の購入資金にするんだと!
それに不満でも、もう化けて出るなよジジイと俺は念じた。

それからしばらくしてあの女が栗やぶどうを手土産にやって来た。
3000万の代償としてはケチだなと思ったのとあの怪訝そうな顔をした女がニコニコしているのにもムカついた。
「私は見返りを期待してやっているのではありません。又、このような見返りを受け取るとあの世との繋がりが切れてしまいますから。」
といい加減な事を言い、追い返した。
2014 08/01 16:15:45 | | Comment(0)
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日本は正直困っていた。
集団的自衛権だの憲法改正だのしてみたもののアジアの隣国は領地を侵害し、右翼化をかたって強がってみたもののすでに世界が争いの出来ない腰抜けであることを知っていた。
抑止力というきわどい言葉を首相の多部自らが吐いたものの、アメリカの黒人大統領のネルソンは争いの出来ないチキン野郎で助けることはないということは世界が分かっていた。
経済的力の無くなった日本などアジアの隣国にとってお世辞一つ言う価値もなかった。
デフレ脱却、景気回復とマスコミとグルになり煽っては見たものの、元々張り子の虎である。ハッピーで馬鹿だと思ってほっといた日本国民が気付き始めた。
まずい!ちょ〜久々に一揆が起きるかも知れない。

ところがひろう神がいたのである。抑止力以上の力を持つ経済力を復活させる神が。
元々、日本にはオナニーをするか絵を描くかの引きこもりの妄想ガキが多数存在した。自ら絵を描かずともそれら精神世界に没頭出来るお坊ちゃん、お譲ちゃんだった。
彼らの消費力は半端でなかったのだが、今度は自分たちをアピールしたいという欲求にかられた。そしてその特異な世界観や価値観を一挙にネット上に拡散した。
2000年以降ヨーロッパを中心にアニメを媒体とした日本のキャラクターは受けた時期はあった。ところがそれとは違ったのが、まず異様なまでの平和観だった。
領土が侵略されようとしている国の若者は奇跡的なほど平和で明るい。何かあるに違いないと世界は勘違いした。
日本の若者たちはアタックされれば即座に白旗を振ろうと考えていたので争う事は始めから想定外だったのだが。
放映されるドラマはヒーローが出てきて地球侵略を狙う宇宙人とは華々しく戦うのだが、一番問題の隣国とは助け合うのだ。
東洋の神秘と全世界が絶賛した。

以前から日本のアニメは吹き替えをされ世界各国で放映されていた。だから日本人はアニメのような人々ではないかという妄想があったらしい。
アニメでは国は救われないのだが、思わぬ方向に進展していく。
その後 実写版として登場した日本のアイドル、つまり女の子たちが国を救う事になる。

キッカケは些細な事だった。海外のアニメ特集番組に小さくて可愛い日本の女の子が登場した。
アニメのコスプレで出てきたその子は18歳だという。白色人種の18歳の娘と言えばすでに牛のように逞しい。
それがどうだ!この可憐な小さな無垢の子は!!!ED化の進みつつあった全世界の男性がその可愛さに狂喜した。
そうか日本はこんな天使がいるから平和でハッピーでいられるんだと勝手に誤解した。
男たちが熱愛する東洋の小娘たちをついには白人女もリスペクトしだした。

それから世界を巻き込んだアイドル狂騒劇が幕をあけた。
個人というより40人位のグループが乱立し、全世界をコンサートで飛び回る。
彼女達は「命をかけてライブをしていきます!!」まさに命がけで働いた。
”可愛い”が世界の共通語になった。可愛いと言われることは彼女らにとって命以上の意味があった。
私は可愛いと言われる為に生まれてきた。もって生まれた女の業は彼女らを無敵の戦士に仕立てた。
彼女達は自分が”神”になれると思い込んでいた。
「夢は叶います」だった。

すでに国家プロジェクトとして動いていた。電化製品や車に次ぐ外貨獲得の商品となっていた。
多少ブスでも愛想よく元気で明るければ、アフリカ辺りで踊らせれば分からない。
着々と外貨を稼ぐ娘たちに政府も大喜びだった。

ところが儲かる商売には必ず模倣犯が現れる。
中国と韓国だ。全くのコピー商品を当ててきた。
日本の多部首相は「いいじゃないですか、可愛い女の子達が世界に平和をもたらすから」等と善人をアピールした。
ところがマスコミとは政府結成当時から結託できており、即座に中国と韓国をぶっ潰せとの号令が飛んだ。
マスコミは即座に韓国の整形疑惑を全世界に向け報道した、イムジン河を泳いで渡る大量の脱北整形美女といったパロディーまで登場した。
中国人アイドルには現金を渡す現場を捏造隠し撮り、泡踊りまでさせた。
なりふり構わない日本のマスコミに敵なしだった。中国と韓国のコピーアイドルは駆逐された。

ところが困ったことに今度は内部から問題が起こった。
中国と韓国を駆逐し、日本人アイドルは犬や猫の血統書と同じで日本人であるということに守られていたのだが。
数百人にも膨れ上がったアイドルの中には、信じられないくらい馬鹿な子やだらしない子も含まれていた。
まず淫行が世界中でパパラッチされはじめ、隠し子のいる17歳の子、総選挙3位の子は男の子というスキャンダルまで発覚。
オランダやタイの浜辺でマリファナを吸う子、挙句の果てには総選挙がらみで上位の子を殺そうとする事件まで起きた。
それでもグループ代表の子は「私達は負けません。みんなの笑顔や勇気のために!」と訴えた。
しかし、アイドル崩壊は他の理由で訪れる。

元々世界的に見ても美的水準から言えば不思議な位置付けのアイドルだった。
バラエティで天下を取ったアイドルの横にハーフタレントの並ぶ画が増え始めた。

彼女達、彼らはモデル出身者が多かった。スタイルだけでなく瞳の大きさ、美しさだけでなくボケることが上手かった。
時によっては言葉の不自由なフリも出来、アイドルのように競争に勝ちます等と愚かな事は口にしなかった。
アイドルと並ぶと益々その差が歴然としてくる。アイドルの存在は日増しにくすんでいった。

政府は度重なる試練に立ち向かっていた。
方向転換は早かった。アイドルを切り捨てハーフを招集し始めた。
ハーフの子が主人公のアニメも多数作られた。
しかし政策は失敗した。似たような子が世界にはたくさんいたのだ。
役人は口を揃えた、「ブスだったから良かったんだ…と。」
2014 07/31 15:37:56 | | Comment(0)
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狭い路地を走り抜けて、海が見える丘に登り、遠い夢を見ていた。
瀬戸内の海は今日もとっぷりとゆっくり流れている。

あの忌まわしい日から10年経った。そう10年前、私の5歳の娘が殺された。
犯され殺され岸壁から捨てられた。随分流された所で釣り人が発見した時は岩に当たったのだろうか、首の骨は折れ全身ボロボロの状態だった。
痛みと苦痛の果てに叩きつけられて息絶えたと見られた。
TVはセンセーショナルに報道し、葬儀も訳のわからない者まで多数参列した。
「かわいそうに」、「なんて残酷な」、という言葉に加え、「お父さんしっかりして下さいね。」
中でも一番怒りを覚えたのが、「罪を憎んで人を憎まずですよ」、お前の子が殺されたらそんなことが平気で言えるのか?
とにかくそれからは偽善者のオンパレードであった。
妻も精神を病んだ。自分の責任だと自分を責め続けた。真っ暗な部屋で「へへへっ」と不気味の笑っている姿に話しかけても反応がない。
仕方なく入院させる事にした。

とりあえず犯人の早期逮捕を願った。全国に知られた殺人事件である、岡山県警のみならず警察の威信をかけ解決すると豪語した。
ところが今だに手がかりさえない。初動調査の不手際だの田舎警察が無能だからだの批判も上がったが、とにかく手がかりがない。
街灯もなければ釣り客もこない場所ではあった。
娘が一人で来るような場所でもないのだが。なぜ?。

完全に座礁に乗上げたかに思えた。
もう10年である、誰もがダメかなと思い始めていた。

ところが奇跡がおきたのだ。



私はアメリカやカナダ、中国といった海外から建築材料を輸入する商社で働いている。
顧客は日本全国にある大手のハウスメーカーやビルダーだ。
年商20億円位の小さな会社ではあるが、私は営業として1ヶ月の半分以上は出張といった日々を送っていた。
主に担当は西日本地区なので九州、特に福岡には以前からよく行っていたのだが…。

ある日、私は福岡でカナダの領事館のよく行うセミナーに出席していた。内容はカナダの製品をブランド化し、お客様に薦めましょうという勝手でつまらない内容だったのだが、建設会社の現場や営業の管理職クラスがそれぞれの会社の命令で大勢出席していた。
2時間もすればお開きになる。腹が減っていたので下の階の食堂で食事をすることにした。

セミナーに参加していた人たちが何名か同じように食事をしようとしている。

実はこれは絶好の営業チャンスなのだ。参加者はまず建築業者の管理職であり、発注権を持つ人たちだ。
営業はいつも数字に追われるが、新規客を開拓しないと売上は萎んでいくものだ。まずは現場責任者風の2人組のテーブルに挨拶した。

「私、輸入建材を扱っています岡山インターナショナルの松尾と申します。」と名刺を差し出す。
「ああ、シングルルーフィングやペイントをやってる岡山さんね。」
どうも会社を知っているようだ。
「ありがとうございます。よろしかったら同席させて頂いてよろしいですか?」
「どうぞ。」
早速 挨拶代わりに自社カタログを渡し、同席させてもらう。

いきなり飯を食うのにしつこい勧誘も無粋である、会社を知ってもらっているのなら尚更、これからは引きトークとばかり世間話。

中洲のあそこが良かっただの、箱崎ふ頭の話だの。
するといかにも現場監督といった風体の男の方が話しだした。
「そう言えば岡山の下津井って言えば、昔、女の子が殺されたって事件あったよね。」
「あの左右色違いのソックス履いてた女の子が殺されたって話。」

私の身体に稲妻が走った!。その事実は公表されていないはず?。というのが面白がって娘が色違いのソックスを履くのを見て、「まるでエースフユーレーだな。」と言った覚えがあるのだ。
エースフユーレーとはアメリカのキッスというバンドのギタリストでよく左右違う色のスニーカーを履いていたという話しからだ。
妻も娘も「何それ?」と笑っていたが。
事件当時、左右違うソックスを履いていたかは定かではない。片方もしくは両方脱げて発見されたかもしれない。
しかし、面白がってよく左右違うソックスを履いていたのは確かなのだ。

名刺を見直す。名前は谷口文男。

こいつが…?。とにかく調べよう。そのためには。

私は谷口に「無垢とホローコアのドアで安いのがあるんですよ、もし良かったら検討ください。見積りは名刺の番号に、谷口さん宛にFAXしときます」
とりあえずそれでその場を離れた。

その夜、私は出張先のホテルから谷口宛に見積りをFAXした。通常売価の半値である。恐らく原価割れかギリギリなのだが、実はある会社の発注ミスで戻ってきたもので在庫にはなっていない商品である。
棚にのっていない商品をいくつかストックしておき新規の営業で使うのは常套手段なのだ。
それ以上に谷口と接点を持つことが重要だった。

案の定である。翌日、電話があり、谷口から検討したいから会社に来てくれとのこと。

早速、私は南区までレンタカーを飛ばし向かった。4階建てのガラス張りの本社ビルである。着工戸数が年間100棟くらいだろうか、まあまあの棟数である。
各現場監督が仕入れを行う仕組みらしく谷口もその一人のようだ。
予定物件の図面を見ながら搬入予定日、サイズ、本数のチェック、搬入方法、搬入住所そして支払い条件、などの確認を終えた。
しかし本懐はそれではなかった。
私は「明日には岡山に帰ります、今日は近くで泊まりますからお近づきの印に一杯行きませんか?」
接待慣れしているのだろうあっさりOKした谷口と別れ、私は次なるシナリオに向け動き出した。

小奇麗な料理屋だった。大きな店ではないがちゃんとした料理を出しそうだ。剣菱を飲み交わしながら谷口の顔色を伺った。
賢い男ではないが自己顕示欲の強そうな自信家みたいだ。とにかく褒めておだてて飲ませた。
「谷口さん、岡山には来られた事があるんですか?」
「ああ、あるよ。岡山の武藤建設さんとは社長同士が仲が良くて勉強会や交流会をやっていてね、アメリカのNAABにも一緒に行ったんだ」
「そうですか、岡山の大手の武藤さんですね。」

結構呑んだだろうか、辛口とはいえ日本酒は胃に残る。谷口もそれほど呑める男ではないようだ。
「谷口さん、博多の女の子は綺麗な子が多いから中洲辺りも楽しいんでしょうね?」
「俺は飲み屋の女は嫌いだ。なんか、こう純粋さがないよね。少女のような可愛さというか…。」
私はドキッとした。なおも谷口は続けた。
「人形みたいな子がいいよな、小さい…。」
疑惑がなければ何ともない会話だったのかもしれない。しかし、この酔っぱらいから漏れた言葉は間違いなかった。

こいつだ!!犯人は。

谷口は独身で現在45歳、母親と会社近くの南区で住んでいる。結婚したことはないようだ。
専門学校を出て25年ずっとここで働いているらしい。
頭はきれる男ではなかったが真面目に勤務は続けてきたらしい。
女子社員と話をすることはなく、同僚や後輩には強がったり虚勢をはったりするようだがあまり相手にされていないようだ。

10年過ぎようが私の恨みは日々膨張し続けている。いつ爆発してもおかしくない。
しかし、今ではダメだ。殺すだけでは復讐し足りない。

私は復讐計画を練った。最終的には殺す。その前に捕まるわけにはいかない。
凄惨な死には意味がない。精神的に追い詰め悲しみと後悔と恐怖の中で処刑しなければならない。
私には体力がない。恐らく谷口と争えば返り討ちにあう恐れもある。
私はまず足がつかないように ネットを通じスタンガンや催涙スプレーといった道具の他に近くの病院の産廃置き場から注射器まで集めた。
目的に向かいまっしぐらに走り始めていた。

準備が完了すると私は会社を辞め、社会とのつながりをすべて切った。

谷口は会社から歩いて帰宅する。歩いても10分位の場所に自宅がある。
見積りや予算計画などで深夜まで残業することもあるが、建築屋の業務としては早く帰ることが多い。
付き合いが少ないというのも原因だろうが。そして週に2〜3回は近所の一杯飲み屋に寄りひっかけて帰るようだ。
そこを狙った。

酔っ払って出てきた谷口を背後から追った。人影も少ない通りにさしかかった時、背後からスタンガン一発。
崩れ落ちる谷口。即座に酔っぱらいを介護するふりをして車に詰め込む。
テレビカメラもない駐車場で身ぐるみ剥ぎ取り素っ裸にした。
行く先は博多駅前である。中洲の真ん中に捨てるとすぐ車から足がつく。博多駅前は裏通りに入ると人がほとんどいない空間がある。
人影が消えた所で谷口を捨てた。1枚だけ素っ裸で放置された写真を取り。

きゃあ!女性の悲鳴に谷口は飛び起きた。ここはどこだ?!。走って逃げたが逃げた先は人だかりの繁華街である。
すぐ警察官が飛んできて、身柄を確保された。
警察から母親に電話があり、結局、酔っ払った末の愚行だとされた。

それから数日後、次に谷口が目覚めたのは西区の生の松原だった。
いくら脳天気な谷口でも これほどまでに悪質ないたずらに恐怖を覚えないわけがなかった。
呑んで帰るのを控えることを決めた。

しかし、呑んでないにも関わらず、3たび襲われることになる。
次に捨てられたのは拉致された場所とほぼ同じ近所だった。又、素っ裸で。
これには困り果てた。近所中で話題になった。あの年で独身なのも頭がおかしいからだと噂された。
母親も近所に恥ずかしいと泣き続けた。

私は子供がするような事をするために復讐を決意した訳ではないのだが、子供がいじめを面白がる感覚と殺意が入り混じり狂い始めていた。

谷口の全裸を撮ったデジカメの画像を引き伸ばし百枚近くプリントアウトした。
それを新聞配達も人もいない僅かな時間帯を狙い、自宅の周辺や会社の壁に貼りまくった。
これには谷口も打ちのめされたようだ。元々、隠れるように生きてきた独身中年男である。
会社にも素っ裸での愚行がバレてしまった。取り敢えず謹慎ということで自宅に引きこもったのだが、谷口には誰がやったのか全く検討もつかない。
母親は絶望した。間違いなくこのバカ息子は首になり職を失うだろうと罵った。
警察もさすがにおかしいということで調べ始めたようだ。怨恨の線から。

そろそろ締めにかかろうと私は決意した。

息苦しさから家を出た谷口の姿を確認後、母親一人を残す家に火炎瓶を数本、投げ入れた。
本当はダイナマイトか手榴弾を用意したかったのだが、そんなもの容易に手に入るはずがない。
しかし、予想に反し炎は瞬く間に広がり、母親もろとも焼きつくした。

谷口は燃え広がる自宅を前に呆然とした。
世界でたった一人の味方であり、唯一愛してくれる人を失くした。
涙も出なかった。

意識のないまま、トボトボと谷口は歩き出した。火事の周りは野次馬でごった返しつつあった。サイレンが響き、消防車もやってきた。
すでに火はすべてを覆い尽くし取り付く島もない状態だった。
数百メートルも歩いていなかっただろう。
谷口は何も感じていなかった。
私は思いっきり背後から谷口を車で轢いた。
ドンという音と共に何メートルだろう?谷口ははじけ飛んだ。私はぐったりとした谷口の上をもう一度轢いた。

当然ではあるが、やがて私は逮捕され拘置された。
理由を聞かれ私は答えた。
「娘を殺した犯人が谷口だと分かったので復讐しました」と。

私は吠えた。
犯罪者は反省しない。その事実をほとんどの人が誤解している。
被害者家族は怨念と後悔に一生苛まれる。
犯罪者は刑期を終え、のうのうと社会に戻ってくる。
それを今度は守るかのように、警察は口を閉ざす。
犯罪者の人権は守れても被害者の無念は関知しない。
恨んだ方が不幸になっていく。
健全でありたいなら報復すべきである。当然の権利だ!。
2014 07/30 19:17:04 | | Comment(0)
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21世紀もすでに半ばになろうとしている。
相変わらずパレスチナ問題はおさまらず、親を殺された子孫たちが敵相手を殺戮する繰り返しだった。
貧しさからの北朝鮮やロシアの崩壊消失後、世界は変わったかに思えた。
しかし、個はマスには変わらず、各々の宗教は価値観の統一、精神的な団結の道具とされ、世界の区分は宗教の区分となった。

谷口文男はボ〜ッと空を見ていた。一度は結婚したが、無類のギャンブル好きと天井天下唯我独尊、
というより傍若無人(喧嘩は弱かったので強がるだけだが)だったのですぐ逃げられた。
そんな文男は周りから見ても決して賢い男ではなかった。だから惑わされなかったのかもしれない。

あれっ?何だあの光は?
港南病院の建物ごしに変な光が見える。やがてその光は大きさを増したように感じた。
しかし、眩しくはない、太陽が2つになったようだが暑くも眩しくもない。
文男にはただの光だった。

しかし周囲の人々の反応は違った。皆、何か神々しいものを見るかのように瞳を輝かせた。
ある老夫婦は涙を流しながら今までの生を感謝し、これからの人生の希望を確信した。
子供は生まれてきた喜びや開放感を身体全体に感じ、生命が弾ける興奮を得た。
妊婦とそれに同行していた老婆は生まれ来る子の神秘と感謝、永遠に続くであろう愛と生命の存続に言葉を失い手を合わせた。
その光は争いや葛藤とは正反対の感情を一気に起こさせた。

まず日本に現れた光は全世界で注目され放映された。

翌日にはLAの上空に現れた。
日本でもすぐ自衛隊の航空機が出動したが、アメリカではテロではないかという警戒から領空侵犯、即、攻撃という手段に出た。
しかしいくら攻撃しようと暖簾に腕押し状態だった。相手も反撃してこない。
業を煮やしたのか、とうとう一機の戦闘機が光の中に突っ込んでしまった。
光は戦闘機もろとも消失した。

その翌日である。LAの大きなホームデポの駐車場。開店前の朝、突然 消失したはずの戦闘機とパイロットが無傷で現れた。
即座に現場は軍の車両、人で包囲されマスコミもシャットアウトされた。
何が起きたのか尋問調査があったはずなのだが異例中の異例の早さで翌日マスコミに公表された。

パイロットへの公開質問が全世界へ配信された。
その内容はこうだ。

私は近づきすぎたと思ったんです。一瞬だったと思います。
気がつくと私は光の中に浮いていました。
そして目の前には私達と同じ姿をした人々。とても美しい男女でした。みた瞬間、天使だと思いました。
彼らは言いました。よく来てくれましたと。
それから色々話してくれました。
元々 自分たちと地球人は祖先は同じだと。
只、彼らの星は平和と愛で歴史が繰り返されたそうです、争いを繰り返す同じ子孫の星があることを後に知り全ての人が心痛め、悲しんだそうです。
何故、自分が生まれなければならなかったか、何故生まれてきたか。そして死んだらどこへ行くか。
何故、キリストや釈迦が生まれてきたか。
それは今までの30年の人生を根本から覆す奇跡でした。わたしはもう流せないほど涙を流しました。
間違いない事は彼らは平和の使者であり、愚かな地球人の人智を超えた存在であるということです。
その証拠に彼らはこちらが危害を加えても何も報復しません。
そして何故光をもたらすか?その答えはこれです。

彼は左手をカメラにかざした。
私は幼い頃、ある事故から薬指の第一関節から先を切断してしまいました。
ところがあの光の源光らしいのですが、数秒ほど当ててもらいました。
その結果がこれです!
おおっ!というざわめきが起こった。
指が再生されている!!。

この報道は数少なく残っている共産国を除いて大々的に放映された。
その後もこの光は全世界に現れ、人々は熱狂した。
そして…この光は数々の奇跡を起こし始めた。

歩けなかった人々が突然歩き出した。
心筋梗塞や脳梗塞で蘇るはずのない心臓の筋肉、脳組織が再生、復活した。
なんといってもガン細胞が消えていった。
病が治るだけではなかった。
少子化に頭を抱える日本で出産が相次いだ。
身体が元気になるだけでなく生殖機能も活発化した。
男も女も発情した。不思議なことに出産適齢期を過ぎた女性が発情することはなかったが。
男は自慰をするとまるで思春期に罪悪感に囚われるあの感覚に襲われる。
子孫繁栄の為の射精である。世界中の若者はまるで産めよ増やせよとハッピーな感覚に包まれながら励んだ。

世界中で我が宗教の神のおかげで光がもたされたと言い続けた。
光は正義と愛国心の象徴となった。

ところが日本だけはオウムや政党と結びつく宗教団体、宗教=カルトという概念もあり、宗教的意味合いが増すことにより批判的な意見がネットを中心に広がった。

するとどうだ。光が定期的な進路を変え、日本に現れなくなった。
光を失った日本は暴動や略奪、犯罪、猟奇的な事件が相次いだ。
普通、そのような状況に陥れば光の反動が原因だと依存性など疑うものであるが、世界はバチがあたったんだと口を揃えた。
もはや光は神の象徴であった。なんといっても平和な気分になり健康になり、どう研究しても依存性を立証できないのだ。
あの大災害でも略奪も起こらず、もしもの時は日本のように振る舞えとさえ言われた日本の醜態に全世界がそれ見たことかと批判した。
日本は神の摂理から外れた国と蔑まれ、ますます廃れていった。
何故か 中国にも現れなくなった。中国の崩壊は早かった。上空の空気が澄み渡るのに月日はかからないぐらいに。

文男にとってはちょっと前の日本も今の日本も変わらなかった。
略奪が増えれば、自分も加わるだけだ。元々薄っぺらな正義などないわい!って光がなくとも脳天気だった。
何とかなる。俺には生命力がある。

すべてがうまくいっているようだった。
若者は1年中発情した。
10月10日かかる出産が7ヶ月もすれば生まれてくる。身体の大きさは通常の出産と変わらぬ大きさで産まれ、産まれた子は驚く成長を遂げた。5ヶ月で歩き始め言葉を発し始める。脳の成長も順調で皆、健康優良児であった。
死産もまず事故以外に起きないほど光の恩恵を受けていた。

当然の事ながら 子供も増え続け、年寄りも死ななければ問題も起きてくるわけだ。

言葉を発しないはずの光が突然言葉を発した。
それぞれの国でそれぞれの民族の姿で。

私達の星はこの美しい地球と同じように同じ肌の人種が存在します。
姿や形は祖先が同じなので全くかわりません。
私達の星は平和しか知りません。私達の星は愛や繋がり合うことしか知らない星です。
自然も生き物もこの星と変わりません。
私達の星は地球の数万倍の大きさです。
私達はもしあなた達が望むなら、あなた達が幸せに暮らせるように場所を提供します。
使い道は自由です。環境をお見せします。
空がスクリーンになった。

そこは楽園だった。
人々の姿も出たが、皆、美しい人々だ。
見ていた女性からも男性からも驚嘆の声が上がった。
水も野菜もフルーツも地球と同じだ。
食料は生命維持を保証する為、星が提供し続けるらしい。
身体一つで旅立てるなんてどこかのCMみたいだが。

深く考えるなよ…って光が言っているようだった。

第一陣の方舟が出発する日。文男はいた。
どうせ地球にいたってたかがしれている人生だ。
美味いもん食って女が抱けるなら、パラダイスだ。
只、他の希望者と違うのは光の効力が文男には無かったということだけだ。

光の方舟は数百人の地球人を載せ飛び立った。
あっという間に宇宙の真ん中にいた。その時、あの光といつもと違う光がさした。
地球人は眠りについた。
文男を除いては。
文男は寝転がる地球人の中にいて 小窓から覗く奇妙な生き物を見つけた。
何だあれ?

その奇妙な生き物達はガサガサと節足動物が発するような音の中、会話なのかテレパシーなのか分からない会話をしていた。

思ったより早くかたがついたな。
種肉も積み込んだし、帰ってあの星と併用して飼育すれば任務完了だ。
しかし俺達に似た生き物をあの星で見かけたんだ。
なんでもあの肉達はゴキブリと呼んでいたな。
えらく小さくて原始的な生き物で知能はないんだが食い意地は俺達そっくりだったよ。

この星の肉は年中発情し繁殖できるってのは食料としては最適だ。
年取ったのはちょっと臭みがあるが若いのは美味いぞ。
年寄りも繁殖可能に出来ないことはないんだがやっぱりいい肉は無理なんだな。
それから 環境や空気も大事なので中国には消えてもらった。
手は下す必要はない、光を当てなければすぐ闇になり勝手に崩壊する。
予想以上に早かったが。
健康でハッピーにすれば美味しい肉になる。本当に。

文男は不思議そうに見つめていた。
大きなゴキブリか?
2014 07/29 16:45:26 | | Comment(0)
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日本ではまだあまり一般的ではないがアメリカに行くと、メラトニンといった睡眠導入剤が容易に買える。
脳内物質に近い物質なので副作用も少なく、依存性も低いらしい。値段も安い。
2014年以降、日本では脱法ハーブと呼ばれる合成薬物が社会問題になり取り締まりも厳しくなった。
知恵のない警察は危険ハーブと呼び名を変えて見たものの解決には至らなかった。

そしてそれから3年、相次ぐ政府の政策ミス、失敗、腐敗、不況と重なり、
国民の間では癒しやストレス解消といった言葉から、快楽主義や快感実感といった言葉がもてはやされる事となった。
貧富の差は顕著となり、景気回復、デフレ脱却といった嘘をやっとハッピーな国民も気づくことになった。

俺の名前は谷口文男。今年でもう50になる。
サラリーマンをしながら細々と生きている、多分?そうだったと思う。
あれっ?どうしたんだろう?
ナンダッタッケ?

なんか凄く毎日幸せな気分なんだ。
愛や平和がいっぱいで、お腹もいっぱいで、みんな愛してくれて。
あれっ?どうしたんだろう?

日本中が騒いでいる。何だろう?
自然至上主義?自然が一番?危険ハーブをやると頭が馬鹿になるぞ。馬鹿になるぞ〜!。
それ以上に規制により価格は高騰。貧乏人の俺が買える訳がないではないか。ふん!。

2014 07/28 19:57:52 | ブログ日記  | Comment(0)
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俺はちょっと小洒落たカウンターでカクテルなど嗜んでいる。
俺の名前は谷口文男、平凡といえば平凡極まりない名ではあるが。
俺には天性の才能がある。それは話術である。俺の巧みな話術で落ちない女はほぼいないという自信がある。
小銭のある時は出会いを求め、女が寄ってくる店をチョイスしては出かける。
そしてそういう店には一人ぐらいは寂しそうに飲んでる女がいるものだ。
そして今日も絶好のターゲット発見。
髪の長いその女はこざっぱりとしたスーツ姿。どこか大きな会社のセールスレディってところか?
スリムだがスタイルの良さがスーツの上からでも伺える。
お一人ですか?(俺が敬語を使うのは最初だけだ)
えっ?ちょっと警戒している様子だが想定内のこと。俺は例のごとく陽気に明るく振る舞った。
どうもOLなのは間違いないらしい。(元々そんなことはどうでもいいことなのだが)
話も順調に進んでいる。今日は久々?にありつけるかもしれない。
君って食べてみたい位可愛いね!いつもの調子で軽く言った。
食べて?彼女の反応は少し不自然に思えたんだが、まあ軽い?恥じらいだろうと思った。
瞳の大きな子だ。多分10人が10人美人だと答えるだろう。子猫のような?
いやちょっと違う気がする。猫ではないな。
彼女は真っ赤な血のようなワインを飲んでいる。それがなぜか性的である。理由は分からない。
何か食べない?いえ私はあんまりお腹空いてないから大丈夫です。
何が好き? …肉。彼女は咄嗟にしまったという表情を見せたが その時本当の意味を俺は分からなかった。
1時間は経っただろうか?ほぼお得意の会話は語りつくそうとしていた。そろそろ連れ出さないと…。
場所を変えない?えっ?いいわよ。あっさりと返事。
うまくいく時は簡単なものだ。そうだ、俺には才能がある。
そしてすぐ店を出た。
俺は今、生ぬるい湿気を感じる夏の夜道を絶品の女と歩いている。
繁華街が少し寂しくなる路地の先はホテル街。いよいよである。
ちょっと休んでいこうか?半世紀以上昔の陳腐なセリフだな…。
そうね。…うまくいく時は簡単なのだ。現実はシンプルなのだ。
まあ男としての俺の魅力に違いないが。小躍りしたくなる衝動を抑え、一番手前のホテルにかけ込む。
そして少々かび臭い廊下を抜け、部屋に入ると精一杯のかっこをつけ抱き寄せた。
先にシャワーを浴びるね。それから唇を引き寄せようとした。
2014 07/28 17:37:12 | ブログ日記  | Comment(0)
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