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もし意志を伝える手段が「左目の瞬きだけ」になったとしたら、耐えられるだろうか。世界的に有名なファッション誌「ELLE」編集長のジャン=ドミニク・ボビー(ジャン)は、見事にやってのけた。
仕事に遊びにと人生を謳歌(おうか)していた42歳のジャンは脳梗塞(こうそく)で倒れる。目覚めると病院の一室だった。何かがおかしい。医師や看護婦の質問に答えているつもりなのに、全身がマヒしていた。
かろうじて動くのは左目のみ。きわめて珍しいロックド・イン・シンドローム(閉じ込め症候群)の症状だという。大変な苦難にも負けず、マチュー・アマルリック演じるジャンは周囲の助けを借りながら、なんと自伝の出版にこぎつける。
「はい」は瞬き1回、「いいえ」は2回。次のステップは、言語療法士が使用頻度の多い順にアルファベットを読み上げ、ジャンが瞬きをした文字をノートに記していく。気の遠くなるような作業だ。
主人公の妻や愛人、言語療法士ら女性陣はみな美しい。手出しできない身となったプレーボーイにとっては、残酷な状況である。だが、美女と生カキを食べキスをするシーンなど想像力と記憶で「めくるめく時」を過ごす。その描き方こそ、画家であるジュリアン・シュナーベル監督の真骨頂だろう。毒気もあり、妻がジャンの愛人のメッセンジャーとなってしまう場面では、3者の反応に息をのむ。
ゴールデン・グローブ賞で監督賞などを獲得し、アカデミー賞では監督賞や脚色賞など4部門にノミネートされている。9日公開。(市川雄二/SANKEI EXPRESS)
産経ニュース
視力落ちただけでショックですよね。
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