そのツタヤの出入口のすぐ傍には飲料水の自動販売機が3つと、少し離れたところにひっそり、17のアイスの自動販売機が1つ佇んでいる。
DVDを返して店内から出ると、ひっそり、の方の自動販売機へ向かう。 ジーンズのポケットから小銭を出し、投入したところで気がついた。 1番左の列の上から3段目の期間限定のアイスが抹茶ショコラになってる、1週間前までは栗バニラだったのに。
昔から甘いものは好きじゃない、でもマロン味だけは別だった。 先々月の終わりにここで見つけて以来、ほぼ週イチでこのツタヤをつかうオレのささやかな楽しみだった、栗バニラ。 一瞬躊躇したけど結局は、なんかカッコ悪、返金レバーに指をかけた。 チャリンチャリンと100円玉と10円玉が落ちてくる音を聞きながら、もう冬なのかと思う。 そうして思い出した、もうすぐあいつの じゃねーの。 毎日顔を合わせていた頃から数年、たまにむこうから用もないのに電話やメールがきていたが、ここしばらくは息をひそめている。
どんな菓子でもマロン味なら食べるオレを、くりはんたー、そう呼んだのはあいつだった。
元気にしてるんだろうか、柄にもなく感傷的になる。 家に帰ったら電話でもかけてやろう。 返金口から栗バニラにはならなかった2枚をポケットに戻して、バイクに跨がった。 きっとこの先、栗の季節が終わる度にオレは、あいつのことを思い出すんだろう。 そっと吐いた息はうっすらと ふ ゆ の し ろ さ。
|