精密・医療用機器大手のペンタックスをTOB(株式公開買い付け)で完全子会社にすることを決めた光学レンズ大手のHOYA。両社の交渉ではペンタックス経営陣のゴタゴタばかりが目についたが、一方の鈴木洋代表執行役(48)らHOYA経営陣に対しても創業一族から「このままではHOYAがダメになる」と経営手腕を疑問視する声が上がっている。創業一族を直撃して、その真意を聞いた。
【イメージ先行?】
HOYAは、2007年3月期(連結)まで5期連続で過去最高益を更新するなど、業績面では好調を維持している。
社内体制の面でも、取締役8人のうち過半数の5人を日本IBMの椎名武雄最高顧問(78)ら社外取締役が占めるなど、先進的な取り組みが目立つ。
「高収益で先進的な優良企業」というイメージがあるHOYAだが、同社の創業一族で株主でもある山中裕(ゆたか)氏はそんなイメージに真っ向から異論を唱える。
HOYAは、兄の山中茂氏と弟の山中正一氏が1941年に共同で創業した。今回、本紙が直撃した裕氏は、茂氏の孫にあたる。鈴木代表執行役とは、いとこ同士という間柄だ。
そんな裕氏は、東大経済学部在学中からM&A(合併・買収)に興味を持ち、卒論では戦前の製紙会社のM&Aについて執筆した。現在は米ボストンとニューヨークを拠点に、投資銀行のパートナー(共同経営者)として、大学研究者の知的所有権を商業化する際のアドバイザリー業務を手掛けているという。
【不透明な将来】
その裕氏はHOYAの収益構造について、「1980年代までの財産で利益を上げているにすぎない」と批判する。
現在の稼ぎ頭は、パソコンや携帯オーディオプレーヤーの記憶媒体として使われている「ガラス磁気メモリーディスク」だが、これが開発されたのは80年代。
この製品は「5年以内に代替品のフラッシュメモリーに取って代わられる」(業界関係者)ともいわれており、この先も稼ぎ頭であり続けられるかは不透明だ。
また、半導体の製造工程で使われる「マスクブランクス」や「フォトマスク」といった製品も70年代から80年代に開発されたもの。
裕氏は「HOYAは90年代以降、新規事業の構築に成功していない」と指摘し、将来の収益の柱が育っていないことを懸念している。
ペンタックス買収については、「医療分野への投資には反対ではない」と理解を示す。しかし、同分野でHOYAの潜在能力が十分に発揮されていないとみており、こう提案する。
「白人の高齢者に多い目の難病『加齢性黄斑変性症』は、1兆円市場といわれている。HOYAは眼内レンズ(白内障の治療に使う人工水晶体)の品質が世界一なので、治療薬を買収して眼内レンズと組み合わせれば、世界を席巻できる」
【買収の危機性】
HOYAの株価は、ペンタックスとの合併を発表した直後の今年1月に4750円を付けた後、下落基調をたどり、最近は3900円台で推移している。
こうした株価の推移について、裕氏は「投資ファンドに目を付けられると、(HOYAが)買収される危険性がある」と警告する。
それにしても創業一族である裕氏が現経営陣への批判を展開する背景には、何があるのか。この問いに対して、こんな答えが返ってきた。
「私自身は乗っ取りや経営参画などはまったく考えていない。創業一族は会社に対し、経済的合理性を超えた愛着があるものです」
つまり、会社への愛着からくる“愛のムチ”というわけだ。
「鈴木さん(HOYA代表執行役)にも複数回にわたりさまざまな進言をしたが、聞く耳を持たなかった」と表情を曇らせる裕氏。今後は「椎名氏ら社外取締役と面会して、意見交換をしたい」と明かした。
活動拠点があるボストンの大リーグ球団、レッドソックスの大ファンという裕氏は最後に、鈴木洋代表執行役にこうエールを送った。
「岡島(秀樹)投手と同じぐらいの報酬をもらっているのだろうから、同じぐらい働いてほしいものです」
ZAKZAK 2007/06/07
今の時代って、逆に大手が苦しいのかな。
|