――へっ、ざまあ見ろ、だ!
――ふほっほっほっほっ。それぢゃ、その意気ぢゃ。
――ちぇっ、忌々しい! お前が己自体に、つまり、俺の夢に出現させられる事に我慢がならぬのであれば、さっさと消えればよからうが!
――ふほっほっほっほっ。それは不可能ぢゃて。何せお前がわしの世界に、つまり、わしの虚空にお前が無理矢理出現してゐるのだからぢゃ。
――む? 俺がお前の虚空に出現してゐるだと? それはまた異な事を言ふ。此の夢は俺が見てゐる夢ぢゃないのかね?
――さうぢゃ。
――さうぢゃ? ならば俺の夢は俺においてちゃんと完結してゐるのぢゃないかね?
――いいや。それでは一つ尋ねるが、お前の夢がお前のみで完結してゐる証左は何かね?
――夢が、俺が見てゐる夢が俺において完結してゐる証左だと? 此の今、俺が見てゐる夢は、俺の頭蓋内の闇たる五蘊場で明滅してゐる仮象たる心象風景ではないのかね? つまり、俺の頭蓋内は俺として完結、否、閉ぢてゐる!
――ふほっほっほっほっ。ならば聞くが、闇は元来お前の《もの》かね?
――闇が俺の《もの》? ちぇっ、俺はそんな事一言も言っちゃゐないぜ。唯、俺の頭蓋内の闇たる五蘊場は、俺において完結若しくは閉ぢてゐると言ってゐるに過ぎぬのだがね。
――だからぢゃ。闇は元来お前の《もの》かね?
――ちぇっ、下らぬ!
――下らぬかね? もう一度聞くが、闇はそもそもお前の《もの》かね?
――ちぇっ、いいや、としか答へやうがないぢゃないか。ふん、闇は、つまり、万物の《もの》さ。
――ふほっほっほっほっ。万物と来たか。簡単に言へばかうぢゃらう。つまり、お前が言ふ頭蓋内の闇たる五蘊場は、元を糺(ただ)せば、不純物が溶解してゐる《水》が頭蓋内の闇を脳といふ構造をした《場》にした、つまり、高が《水》をもってしてそんな脳といふ構造をした《場》を作り出すといふ芸当ができるのだから、《水》以外の森羅万象が闇を何かしらの構造をした《場》にしてしまふ事態は、此の宇宙を見渡せば在り来たりの《もの》、否、現象に過ぎぬのぢゃないかね?
――つまり、それは意識は、ちぇっ、魂は何《もの》にも宿り得るといふ事かね?
――違ふかね?
――違ふかね? すると、万物に、否、森羅万象に魂が宿るといふのは、お前の独断でしかないのぢゃないかね?
――さうぢゃ。ふほっほっほっほっ。
――ちぇっ、下らぬ!
――さう断言するお前は、さて、何《もの》かね? 元を糺せば唯の《水》と違ふかね?
――さうだが、それが如何したといふのか?
――つまり、《水》は有機物とは違ふ無機物ぢゃらう?
――だから、それが如何した?
――つまり、無機物の、ふほっほっほっほっ、此の宇宙には在り来たりの《もの》の一つでしかない《水》が闇を脳といふ構造をした《場》へと昇華させられるのであれば、何《もの》も闇を《場》へと昇華させられる筈ぢゃがね。
――元々、闇は、それが仮令《真空》であったとしてもだ、闇といふ時空間は元々《場》ぢゃないのかね?
――ならば闇の同質性は認めるかね?
――闇の同質性? ふん。それはをかしくないかな?
――何処がをかしいのかな?
――だって闇は何《もの》も呑み込む何かぢゃないかね? すると、闇は連続した線形として語れるのか、それとも非連続の非線形として語れるのか、どちらだと思ふ?
――さてね。多分、闇は線形と非線形の両様の様態をしてゐるんぢゃないのかな。ところが闇は何《もの》も呑み込まなければならぬ宿命にある。ふほっほっほっわ。闇もまた哀れぢゃの。
(四の篇終はり)
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