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【雲の流れるスピードで、嵐がくると思った。】
オレンジに染まる空のした、土手の道を、志信くんと手を繋いで歩く。お互いの緊張は触れる掌から伝わり合って、2人のあいだには熱だけがあった。 空はもうすぐピンクに変わるんだろう。
わたしの左足付け根の外側には、肌の色より少し濃い2×3?ほどのいびつなまるい痣がある。 それは生まれつきのもので、文字通りわたしは生まれたときからその痣とずうっと一緒なのだけど、どうしても愛してあげることが、できない。 整形外科なんかに行けば、綺麗に消してもらえるんだろう、でも違う、そんなのは全然違う。
きっと誰にもわかってもらえない哀しみは、痣と一緒、どうにもならない。 どうにもならないから忘れたい、日常生活で見られることはないことが幸いだった、存在をこころの隅に押しやった。
そういうのが強さ?大人になるっていうことなのかな。
だから、志信くんの部屋についてくつを脱ぐのももどかしくハグ、キス、ベッドにしずんで、ピンクから紫へ変わる空の色を窓の外に見て、ようやく存在を思い出した。 自分の女のコのからだに痣なんかあったら嫌だよね。 でも熱っぽいあたまでどうしたらいいか考える余裕なんてなくて泣きそう。
志信くんの指先が痣に触れたとき、うまれつきなの、と先に言うのが精一杯だった。
すこしの間のあと、じゃあ、と志信くんはわたしの顔を見て。
じゃあ、もしも咲希が悪い魔女に魔法をかけられて蛙にされたとしても、このしるしのおかげで、俺は咲希を、見つけだせるね。
そう言って今度は唇で痣に優しく触れるので、わたしは涙も零さず静かに泣いた。
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