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”試練の迷宮”に沢山の冒険者達が集まっていた頃、 それは『私には全く関係のない出来事』だと思っていた。
【試練の迷宮】
私の家には父が居ない。 物心ついたころには、家に父の姿がなかったのだ。 母は何も言ってくれなかったけれど、私は、父は病死したものだと思い込んでいた。 昔流行り病で沢山の人が死んだ事を、小さい頃に母から聞かされていたから。
今は、母と、兄と、私と…3人で、決して裕福ではないけれど、平穏に暮らしている。 そんな中、この田舎町にも”試練の迷宮”の話が飛んできたのだ。
そんなある日、兄が言った。
「試練の迷宮か〜…オレでも、行けるか?」
目を合わすと、子供っぽい顔をして尋ねてくる。 私は少々あきれつつ、口を開いた。
「行ける訳ないじゃない。 兄さん、身体を鍛えたりとか全然したことないでしょ? 試練の迷宮に辿り着く前に、野垂れ死んでしまうに決まってる」
「…ば、バカにするなよ?オレだって、父さんの血を引いているんだからな!」
「…父さん?」
「ああ、父さんだ! 俺は、父さんは冒険者だったと思うんだ。 そして、旅に出たまま帰って来てないんだよ!」
「…はぁ?」
私と兄のかみ合わない会話。 私は少し頭痛を覚えながら、後は兄の話に適当に相槌を打つだけ。
それから更に数日経つと、また兄がおかしなことを言いに来た。
「きいてくれ、この街にも”迷宮”があったんだ! …東の森の、ずっと奥のほうに、洞窟があるんだ。 きっと、そこに何かあるか違いない」
ああ、またはじまった。
「俺は父さんみたいに、試練の迷宮にはいけないけど… あの洞窟なら、行けると思うんだ! …待っていろ、パトリシア。 お前と母さんに、贅沢な暮しをさせてやるからな!」
…眩暈がする。兄は、頭でも打っておかしくなったのだろうか?
その日の昼、兄は太い木の棒を持つと、その洞窟とやらに向かっていった。 そして夕方には帰ってきて、いつものように3人でご飯を食べるのだった。 私は、何も聞かなかった。
・ ・ ・ 兄が洞窟に通い出して何日か経った。 私はふと、母さんに尋ねてみる。
「ねぇ、母さん。私の父さんはどこに居るの? 生きているの?死んでいるの?」
特に驚くでもなく、母は答えた。
「あら、言ってなかったかしら?」
「言ってないわよ」
「まぁ、ごめんなさいね、パトリシア。 すっかり忘れていたわ。 あなたの父さんはね… 穴を掘っているのよ」
その以外な答えに、私は思わずポカンと口をあけてしまう。 その場に兄が居たならば、笑われていただろう、そんな表情だった。
「…穴?」
「そう、穴を掘りにいったまま帰ってこないの。
”この近くに、宝がある!”って、急に言い出して…。 それから毎日、穴を掘っていたのよ。
あなたが3歳くらいの時だったかしら。 それまでは穴を掘りに行って、夕食は家で食べてたのに、 夕食の時すら家にもどらなくなって、 暗くなっても戻って来ないのよ…
…そのまま、何年たったのかしら」
母は遠い目をしている…。
「…その穴は、どこにあるの?」
私が問いかけると、母はゆっくりと私の目を見て答えた。
「そうね、東の森だったかしら」
その日、洞窟へ出かけた兄は、夕食時間になっても家に戻ってこなかった。
・ ・ ・ 兄が居なくなって5年。 私は街の青年と結婚した。 母はとても喜んでくれた。
私と夫との間に、男の子が生まれた。
…それから私は嫌な予感がして、東の森に行ってみた。 そこには、父が掘った、兄が消えた、穴がある。 兄は洞窟だと言っていたけど、実際に見てみたら、大人一人がギリギリ入れるような……確かに、穴だった。
私は毎日少しずつ、その穴に石を運んでいった。 体が疲れない程度に、家事の合間に、少しずつ。
その穴の入り口が石でいっぱいになる頃には、 息子は歩き出し、お腹の中にはもう一つの命があった。 もうあまり無理は出来ないと思い、 私はその石の上に、丁寧に土を被せてく。
「父さんも、兄さんも…バカな人。 息子は、連れて行かせないから」
息子も、こんな人たちの血をひいている。 この穴の中に、吸い込まれてはたまらない。
私は、作業を終えた充実感に満たされながら、 少し大きくなってきたお腹をゆっくりさすった。
「出来れば今度は…、女の子がいいな」
〜END〜
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・あとがき・
あまり長くできないので短く…ログを上げるときには加筆修正したいです。 一応、Wiz世界のサイドストーリーとしてかいてみました。 子供っぽい男と、どこか冷めている女。 こういう、やまも落ちもないような話って結構スキです。
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