俺はちょっと小洒落たカウンターでカクテルなど嗜んでいる。 俺の名前は谷口文男、平凡といえば平凡極まりない名ではあるが。 俺には天性の才能がある。それは話術である。俺の巧みな話術で落ちない女はほぼいないという自信がある。 小銭のある時は出会いを求め、女が寄ってくる店をチョイスしては出かける。 そしてそういう店には一人ぐらいは寂しそうに飲んでる女がいるものだ。 そして今日も絶好のターゲット発見。 髪の長いその女はこざっぱりとしたスーツ姿。どこか大きな会社のセールスレディってところか? スリムだがスタイルの良さがスーツの上からでも伺える。 お一人ですか?(俺が敬語を使うのは最初だけだ) えっ?ちょっと警戒している様子だが想定内のこと。俺は例のごとく陽気に明るく振る舞った。 どうもOLなのは間違いないらしい。(元々そんなことはどうでもいいことなのだが) 話も順調に進んでいる。今日は久々?にありつけるかもしれない。 君って食べてみたい位可愛いね!いつもの調子で軽く言った。 食べて?彼女の反応は少し不自然に思えたんだが、まあ軽い?恥じらいだろうと思った。 瞳の大きな子だ。多分10人が10人美人だと答えるだろう。子猫のような? いやちょっと違う気がする。猫ではないな。 彼女は真っ赤な血のようなワインを飲んでいる。それがなぜか性的である。理由は分からない。 何か食べない?いえ私はあんまりお腹空いてないから大丈夫です。 何が好き? …肉。彼女は咄嗟にしまったという表情を見せたが その時本当の意味を俺は分からなかった。 1時間は経っただろうか?ほぼお得意の会話は語りつくそうとしていた。そろそろ連れ出さないと…。 場所を変えない?えっ?いいわよ。あっさりと返事。 うまくいく時は簡単なものだ。そうだ、俺には才能がある。 そしてすぐ店を出た。 俺は今、生ぬるい湿気を感じる夏の夜道を絶品の女と歩いている。 繁華街が少し寂しくなる路地の先はホテル街。いよいよである。 ちょっと休んでいこうか?半世紀以上昔の陳腐なセリフだな…。 そうね。…うまくいく時は簡単なのだ。現実はシンプルなのだ。 まあ男としての俺の魅力に違いないが。小躍りしたくなる衝動を抑え、一番手前のホテルにかけ込む。 そして少々かび臭い廊下を抜け、部屋に入ると精一杯のかっこをつけ抱き寄せた。 先にシャワーを浴びるね。それから唇を引き寄せようとした。
そんなことどうでもいいわ!。 彼女は驚くべき俊敏さで首筋に噛み付いた。一瞬にして激痛が頭のテッペンまでつきあがった。 毒というより細菌が首筋の血管を伝い脳に到達した感じだ。身体は制御を失った。 俺は崩れ落ちた。崩れ落ちる瞬間、彼女の大きな瞳が透明の瞼が閉じて瞬きしたように思った。 巨大なトカゲだ。気づいた時は遅かった。俺は今から食われる事を察知した。
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