立ち寄った道の駅でかみさんが、アンパンを買ってきてくれた・・。なんと、それは・・・。
今年59歳になる、私の話だ。今から50年ほど前、函館本線の普通列車がまだD51やC58にひっぱられていたころの話だ。冬休みになると、函館市全市の小学生を対象としたスキー学校が大沼スキー場(吉野山)で開催された。
朝早くの汽車で各々が吉野山を目指すのだ。大沼駅で降りて、徒歩で吉野山を目指し、終わるとまた徒歩で大沼駅を目指す。15:50ころに入線する普通列車に乗って、帰路に就くのである。ホームは3番線だったと思う。先発で1番線に入線し、瞬く間に走り去るC62がけん引する急行ニセコの姿を皆で羨望のまなざしで見送るのが日課だ。
そのころ、一人のおばあちゃんがホームに現れる。大沼あんぱんを売りに来るおばあちゃんだ。3個入りで30円のそれは、スキー学習で疲れ果てた子供たちの胃袋をわしずかみにした。ほんのり塩味のしっとりした薄いパン生地に包まれた優しい甘さのこしあんは、何ものにも代えがたく美味かった。
ある日、おばあちゃんが来る前に、団子売りのおじさんが現れた。もちろん、大沼だんごのである。めったに現れない団子売りのおじさんに子供たちは歓喜し殺到した。当時1個が150円だったと思う。
後から来たあんぱんおばあちゃんは途方に暮れて、涙ぐんだ。いっぱいもってきたのに、これじゃ売れねえなあ、というつぶやきが漏れた。
それを聞いてしまった私は居ても立っても居られない。思わず叫んでいた。 「だんご一つ分で、こっちのあんぱんなら5個買えるぞー。」 群衆はなだれうってこちらへやってきた。 そしてアンパンはあっという間に完売。
ばあちゃんが言った「おめえさやるのも売っちまった。明日けるからな。」 うんとうなずいて汽車に乗った私。 でも、明日はなかったのである。その日はスキー学校終了日。
あれから50年。いつしか吉野山のスキー場は廃業となり、名物大沼あんぱんの姿も観なくなってしまった。
でも時々思い出していたんだ。明日もらえるはずのあんぱんのこと。
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