其処は漆黒の闇に永劫に蔽はれた場所であった。暫くの間、私は全く動かずに何年も何年も其の場の同じ位置で顔を腕の中に埋めながら蹲り続けてゐる外ない程に心身ともに疲弊しきってゐたので、外界が永劫に漆黒の闇に蔽はれてゐた事は長きに亙って解らぬままであったのである。
私は腕に顔を埋めたまま絶えず
――《吾》とはそもそも何か?
と自問自答する無為の日々を送ってゐたのであった。そんな私にとって外界は無用の長物以外の何物でもなかったのである。そんな底なしの自問自答の中、不意に私の影がゆらりと動き私から逃げ出す素振りを見せた気配がしたので、私は、不意に頭を擡げ外界を眺めたら其処が漆黒の闇に蔽はれ何も見えない場所であったのを初めて知ったのであった。勿論、私の影は外界の漆黒の闇の中に融解してゐて、何処にあるのか解らなかったのは言ふまでもない。
――此処は何処だ!
さうなのである。私は闇の中の闇の物体でしかなかったのである。つまりは《吾》闇なり。
――闇の《吾》とはそもそも何か?
それ以降斯くの如き自問自答の無間地獄が始まったのであった。何処も彼処も闇また闇であった。
しかし、闇とは厄介なもので私の内部で何か動きがあるとそれに呼応して何やら外界の闇は異様な気配を纏って私の内部の異形の《吾》となってすうっと浮かび上がった気配を私は感じるのであったが、眼前には漆黒の闇が拡がるばかりであった。
――誰か《吾》の前に現れたか?
その問ひに答えへるものは何もゐなかったのは言ふまでもない。在るのは漆黒の闇ばかりであった。まさにそれは暖簾に腕押しでしかなかったのである。
――へっ、馬鹿が。お前の内部を覗いたって何もないのは初めから解り切った事ではないか。へっ、《吾》を知りたければ外界を穴が開くほど凝視するんだな! 馬鹿が!
漆黒の闇の何処とも知れぬ処から斯様な嘲笑が漏れ出たのであった。
さうなのである。私はずっと外界の漆黒の闇に侮蔑されてゐたのであった。私は不意に一歩前へ踏み出ようとしたが、其処に足場は無く、直ぐ様私は足を引っこめざるを得なかった。
――もしや、此処は……深淵の《浮島》なのか……嗚呼……《吾》斯く在りか……。