思索に耽る苦行の軌跡

――ところで、《吾》以外全て《吾》といふ状況でも、さて、《吾》は己を《吾》と言ひ切る覚悟はあると思ふかい? 





――つまり、《吾》は無限を持ち切れると思ふといふことか? ……ふむ……解からないな……《吾》が《特異点》において《吾》であると言ひ切れるかどうかは……そもそも……《特異点》では《吾》といふ概念を忘失してゐるんじゃないかね? 





――するとだ、《特異点》では《吾》なることのみを渇望する、所謂、主客転倒した《桃源郷》が実現してゐるといふことか? 





――我執の呪縛からは少なくとも遁れられる……か? 





――…………。





――《吾》なれざる《吾》、つまり、《他=吾》が《吾》を渇望することは我執ではないのか? 





――へっ、我執もへったくれもない! 《吾》が《吾》でないと解かった途端、その《吾》、即ち《他=吾》は狼狽(うろた)へる。所詮、《吾》、即ち《他=吾》とはそんな《もの》さ。





――確かに《特異点》では《他=吾》の《吾》は『何が「私」だ!』と右往左往するに違ひない。しかし、それも《吾》が《他=吾》へと壊滅するまでのほんの一瞬に過ぎぬ。《吾》が《他=吾》へと壊滅すると『全てが「吾」なり!』といふ境地へ《吾》は一気に相転移を遂げ、そして《他=吾》は《特異点》の森羅万象に溶解する。





――ふっ、つまり、「《吾》は無限なり」と呟く《もの》だらけの《全体》――この言ひ方は気色悪い――が《特異点》には辛うじて《存在》する。へっ、《特異点》で「吾」と呟く《もの》は既に恥辱でしかないのさ! 





――それはあらゆる《もの》が《全体》で《重なり合ふ》といふことかね? 





――ちぇっ、逆に尋ねるが、その《全体》とはそもそも何だと思ふかね? 





――《特異点》のことではないのか? 





――《特異点》はその字義の通り《点》でしかないのだぜ。





――しかし、無限を呑み込んでゐる《点》だ。





――だから如何したといふのかね? 所詮、《特異点》は単なる《点》に過ぎぬ。しかし、それでも《特異点》は《全体》なのだ。ちぇっ。





――…………。





――その《点》を求めて有限なる《もの》全ては《夢想》する。「さて、《吾》とは何ぞや?」とね。





――《存在》の塵箱とどちらが言ひ出したかは忘れてしまったが、しかし、どちらが言ったにせよそんなことは構ひやしない。つまり、だから《特異点》は《存在》の塵箱なのさ。





――ふむ。有限界では《特異点》はパンドラの箱の如く《点》に封じ込めておかなければ《存在》が一時も《存在》足り得ぬ禁忌な《もの》か……。





――ふっ、しかし、無限の相においては《特異点》は《点》ではなく《全体》へと変化する……か……ちぇっ、それは俺の単なる願望でしかない! 





――ふっ、確かにさうに違ひないが、しかし、この悪意に満ちた宇宙をちらっとでも震へ上がらせるには《存在》は無と無限を掌中にする《夢想》を抱かずして如何する?  





――ふっ、それが《他=吾》の正体かね? 





――ふん、嗤ひたければ嗤ふがいいさ。それでも《他=吾》の相が必ず此の世に出現する筈だ。否、出現させねばならぬのだ! 





――ふむ。それ程この宇宙は悪意に満ちてゐるかね? 





――へっ、また堂々巡りだぜ。先にも言った通りこの宇宙の悪意はそれはそれは酷いものだぜ。





――つまり、それは《他》の《死》なくして《吾》の《存在》はあり得ぬといふことを指してのことだらうが、しかし、その死の大海にぽつねんと浮かぶ小島の如き《存在》共は、裏を返せばその《死》をも代表した何かに違ひない。さうは思はぬか? 





――つまり、《生》と《死》の相は地続きだと? 





――《存在》してしまった《もの》は如何足掻いても《剿滅》を先験的に内包してゐる、有限故にな。つまり、《存在》とは《死》といふものをその《存在》が誕生する以前に既に約束されてしまってゐる哀れな何かといふことだ、ちぇっ。





(廿五の篇終はり)







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2009 03/23 04:42:20 | 哲学 文学 科学 宗教 | Comment(0)
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