思索に耽る苦行の軌跡

――しかし、記録は、映像の記録としての記録は、ちゃんと後世の為に残さなければならぬのもまた信なり――ってか。ふん。土台、歴史としての記録は何らかの形で自然と残っちまふ《もの》ぢゃないのかね? 





――それは当然だらう。何らかの媒体が記録に変化して必ず残るのは当たり前さ。それが口伝であらうが、言語であらうが、映像であらうが、歴史といふ記録は必ず何らかの形で残る。唯、問題なのは現在を生きる《もの》の記憶が《他》の記憶といとも簡単に交換可能な現在の異常事態の中で、《吾》たる《もの》は如何生存して行けばよいのか、未だ何《もの》も解かっちゃゐない事が危ふいのさ。





――馬鹿が! そんな事、解かっちまった方がむしろ《吾》たる《存在》にとって脅威だぜ。





――何故? 





――何故もへったくれもなからうが! 記録もまた生き残る《もの》しか残らないのさ。それ故に、群れてしか《存在》出来ぬ《もの》として仕組まれて創られた、つまり、「先験的」に群れるやうに仕組まれてゐる《存在》は、己の記憶を《他》と共有せずにはゐられぬのもまた自然の道理だらう? 





――だが、しかし、唯の映像が、ちぇっ、映像を見て何か解かった気になる事の馬鹿らしさに、《存在》は既にうんざりしてゐるのと違ふかね? 





――だが、映像は退屈な《時間》を紛らはして呉れるぜ。





――それは別に映像に限ったことぢゃないぜ。音楽鑑賞にしろ読書にしろ《個時空》の《吾》の時空を作品といふ《他》の《個時空》、それは既に死んじまった《もの》の作品といふ名の《他》の《個時空》の場合が多いのだか、その《他》の《個時空》に流れ渦巻く時間に、《吾》の《個時空》の時間は同調し、また、重なり合ふ。





――へっ、それは同調、そして、重なり合ふと言へるのかね? むしろそれは、《吾》の《個時空》が《他》に掠奪されてゐるのと違ふかね? 





――《吾》の《個時空》が《他》に掠奪されてゐる? それはさもありなむだな。ふっ、《個時空》と名付けたは良いが《個時空》なる《もの》をよくよく見れば、世界の中でしか《存在》出来ぬ代物、つまり、《吾》も《他》も全て世界に流れ渦巻いてゐるに違ひない世界=時空の大河に身を委ねちまってしか《存在》出来ぬ、即ち、《個時空》は元来が世界といふ《他》なくしては一時も《存在》出来ぬParadox(パラドックス)を《吾》は生きるしかないのかな……ふっ。





――へっ、《個時空》そのものが元々矛盾してゐるのさ。





――そんな何かを達観した如くに語るのは《吾》は《吾》らしくないぜ。





――《吾》らしい? ふっ、《吾》は元来が《吾》を捕捉し損なった《存在》としてしか此の浮世には《存在》出来ぬのぢゃないかね? 





――土台、《吾》が《吾》と名指してゐる《もの》が夢幻空花なる《もの》、つまり、映像と同様、《物自体》の影しか捕捉できぬ憾みは如何ともし難い! 





――つまり、《吾》は世界を媒介にしてしか《他》と繋がれぬといふ事さ。





――さて、本当に《吾》は世界を媒介にしてしか《他》と繋がってゐないのだらうか? 





――つまり、共同幻想と言ひたいのかね? 





――さう。しかも映像は、それが実際の世界に近しい故に尚更共同幻想を暴走させる。





――ちぇっ、濁流の中にカルマン渦は《存在》出来ぬといふ事かね? 





――さう。映像により尚更助長され暴走を始めてしまった共同幻想の中に《吾》の《個時空》は既に渦巻く事を断念せざるを得ぬのだ。





――それが現代社会だと? 





――付かぬ事を聞くが、お前は社会から自律した《存在》かね? 





――社会から自律した《存在》の筈がないぢゃないか! 





――それはまた如何してかね? 





――社会若しくは世界からの自律とは、つまり、世界から独立し自存した《存在》として《吾》はあれといふ事ぢゃないかね? 





――ふっ、それが出来ていれば《存在》の様式は今とは全く違った《もの》として《存在》出来た筈だのか、実際は、《吾》を初めとするあらゆる《存在》は世界=内=存在としてしか《存在》の有様は実現不可能なのは一体全体何なのか! ちぇっ。





(六十一の篇終はり)







自著「夢幻空花なる思索の螺旋階段」(文芸社刊)も宜しくお願いします。詳細は下記URLを参照ください。
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-05367-7.jsp



2009 12/14 06:07:30 | 哲学 文学 科学 宗教 | Comment(0)
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