21世紀もすでに半ばになろうとしている。 相変わらずパレスチナ問題はおさまらず、親を殺された子孫たちが敵相手を殺戮する繰り返しだった。 貧しさからの北朝鮮やロシアの崩壊消失後、世界は変わったかに思えた。 しかし、個はマスには変わらず、各々の宗教は価値観の統一、精神的な団結の道具とされ、世界の区分は宗教の区分となった。
谷口文男はボ〜ッと空を見ていた。一度は結婚したが、無類のギャンブル好きと天井天下唯我独尊、 というより傍若無人(喧嘩は弱かったので強がるだけだが)だったのですぐ逃げられた。 そんな文男は周りから見ても決して賢い男ではなかった。だから惑わされなかったのかもしれない。
あれっ?何だあの光は? 港南病院の建物ごしに変な光が見える。やがてその光は大きさを増したように感じた。 しかし、眩しくはない、太陽が2つになったようだが暑くも眩しくもない。 文男にはただの光だった。
しかし周囲の人々の反応は違った。皆、何か神々しいものを見るかのように瞳を輝かせた。 ある老夫婦は涙を流しながら今までの生を感謝し、これからの人生の希望を確信した。 子供は生まれてきた喜びや開放感を身体全体に感じ、生命が弾ける興奮を得た。 妊婦とそれに同行していた老婆は生まれ来る子の神秘と感謝、永遠に続くであろう愛と生命の存続に言葉を失い手を合わせた。 その光は争いや葛藤とは正反対の感情を一気に起こさせた。
まず日本に現れた光は全世界で注目され放映された。
翌日にはLAの上空に現れた。 日本でもすぐ自衛隊の航空機が出動したが、アメリカではテロではないかという警戒から領空侵犯、即、攻撃という手段に出た。 しかしいくら攻撃しようと暖簾に腕押し状態だった。相手も反撃してこない。 業を煮やしたのか、とうとう一機の戦闘機が光の中に突っ込んでしまった。 光は戦闘機もろとも消失した。
その翌日である。LAの大きなホームデポの駐車場。開店前の朝、突然 消失したはずの戦闘機とパイロットが無傷で現れた。 即座に現場は軍の車両、人で包囲されマスコミもシャットアウトされた。 何が起きたのか尋問調査があったはずなのだが異例中の異例の早さで翌日マスコミに公表された。
パイロットへの公開質問が全世界へ配信された。 その内容はこうだ。
私は近づきすぎたと思ったんです。一瞬だったと思います。 気がつくと私は光の中に浮いていました。 そして目の前には私達と同じ姿をした人々。とても美しい男女でした。みた瞬間、天使だと思いました。 彼らは言いました。よく来てくれましたと。 それから色々話してくれました。 元々 自分たちと地球人は祖先は同じだと。 只、彼らの星は平和と愛で歴史が繰り返されたそうです、争いを繰り返す同じ子孫の星があることを後に知り全ての人が心痛め、悲しんだそうです。 何故、自分が生まれなければならなかったか、何故生まれてきたか。そして死んだらどこへ行くか。 何故、キリストや釈迦が生まれてきたか。 それは今までの30年の人生を根本から覆す奇跡でした。わたしはもう流せないほど涙を流しました。 間違いない事は彼らは平和の使者であり、愚かな地球人の人智を超えた存在であるということです。 その証拠に彼らはこちらが危害を加えても何も報復しません。 そして何故光をもたらすか?その答えはこれです。
彼は左手をカメラにかざした。 私は幼い頃、ある事故から薬指の第一関節から先を切断してしまいました。 ところがあの光の源光らしいのですが、数秒ほど当ててもらいました。 その結果がこれです! おおっ!というざわめきが起こった。 指が再生されている!!。
この報道は数少なく残っている共産国を除いて大々的に放映された。 その後もこの光は全世界に現れ、人々は熱狂した。 そして…この光は数々の奇跡を起こし始めた。
歩けなかった人々が突然歩き出した。 心筋梗塞や脳梗塞で蘇るはずのない心臓の筋肉、脳組織が再生、復活した。 なんといってもガン細胞が消えていった。 病が治るだけではなかった。 少子化に頭を抱える日本で出産が相次いだ。 身体が元気になるだけでなく生殖機能も活発化した。 男も女も発情した。不思議なことに出産適齢期を過ぎた女性が発情することはなかったが。 男は自慰をするとまるで思春期に罪悪感に囚われるあの感覚に襲われる。 子孫繁栄の為の射精である。世界中の若者はまるで産めよ増やせよとハッピーな感覚に包まれながら励んだ。
世界中で我が宗教の神のおかげで光がもたされたと言い続けた。 光は正義と愛国心の象徴となった。
ところが日本だけはオウムや政党と結びつく宗教団体、宗教=カルトという概念もあり、宗教的意味合いが増すことにより批判的な意見がネットを中心に広がった。
するとどうだ。光が定期的な進路を変え、日本に現れなくなった。 光を失った日本は暴動や略奪、犯罪、猟奇的な事件が相次いだ。 普通、そのような状況に陥れば光の反動が原因だと依存性など疑うものであるが、世界はバチがあたったんだと口を揃えた。 もはや光は神の象徴であった。なんといっても平和な気分になり健康になり、どう研究しても依存性を立証できないのだ。 あの大災害でも略奪も起こらず、もしもの時は日本のように振る舞えとさえ言われた日本の醜態に全世界がそれ見たことかと批判した。 日本は神の摂理から外れた国と蔑まれ、ますます廃れていった。 何故か 中国にも現れなくなった。中国の崩壊は早かった。上空の空気が澄み渡るのに月日はかからないぐらいに。
文男にとってはちょっと前の日本も今の日本も変わらなかった。 略奪が増えれば、自分も加わるだけだ。元々薄っぺらな正義などないわい!って光がなくとも脳天気だった。 何とかなる。俺には生命力がある。
すべてがうまくいっているようだった。 若者は1年中発情した。 10月10日かかる出産が7ヶ月もすれば生まれてくる。身体の大きさは通常の出産と変わらぬ大きさで産まれ、産まれた子は驚く成長を遂げた。5ヶ月で歩き始め言葉を発し始める。脳の成長も順調で皆、健康優良児であった。 死産もまず事故以外に起きないほど光の恩恵を受けていた。
当然の事ながら 子供も増え続け、年寄りも死ななければ問題も起きてくるわけだ。
言葉を発しないはずの光が突然言葉を発した。 それぞれの国でそれぞれの民族の姿で。
私達の星はこの美しい地球と同じように同じ肌の人種が存在します。 姿や形は祖先が同じなので全くかわりません。 私達の星は平和しか知りません。私達の星は愛や繋がり合うことしか知らない星です。 自然も生き物もこの星と変わりません。 私達の星は地球の数万倍の大きさです。 私達はもしあなた達が望むなら、あなた達が幸せに暮らせるように場所を提供します。 使い道は自由です。環境をお見せします。 空がスクリーンになった。
そこは楽園だった。 人々の姿も出たが、皆、美しい人々だ。 見ていた女性からも男性からも驚嘆の声が上がった。 水も野菜もフルーツも地球と同じだ。 食料は生命維持を保証する為、星が提供し続けるらしい。 身体一つで旅立てるなんてどこかのCMみたいだが。
深く考えるなよ…って光が言っているようだった。
第一陣の方舟が出発する日。文男はいた。 どうせ地球にいたってたかがしれている人生だ。 美味いもん食って女が抱けるなら、パラダイスだ。 只、他の希望者と違うのは光の効力が文男には無かったということだけだ。
光の方舟は数百人の地球人を載せ飛び立った。 あっという間に宇宙の真ん中にいた。その時、あの光といつもと違う光がさした。 地球人は眠りについた。 文男を除いては。 文男は寝転がる地球人の中にいて 小窓から覗く奇妙な生き物を見つけた。 何だあれ?
その奇妙な生き物達はガサガサと節足動物が発するような音の中、会話なのかテレパシーなのか分からない会話をしていた。
思ったより早くかたがついたな。 種肉も積み込んだし、帰ってあの星と併用して飼育すれば任務完了だ。 しかし俺達に似た生き物をあの星で見かけたんだ。 なんでもあの肉達はゴキブリと呼んでいたな。 えらく小さくて原始的な生き物で知能はないんだが食い意地は俺達そっくりだったよ。
この星の肉は年中発情し繁殖できるってのは食料としては最適だ。 年取ったのはちょっと臭みがあるが若いのは美味いぞ。 年寄りも繁殖可能に出来ないことはないんだがやっぱりいい肉は無理なんだな。 それから 環境や空気も大事なので中国には消えてもらった。 手は下す必要はない、光を当てなければすぐ闇になり勝手に崩壊する。 予想以上に早かったが。 健康でハッピーにすれば美味しい肉になる。本当に。
文男は不思議そうに見つめていた。 大きなゴキブリか?
その後、種肉として文男は宇宙人も予期できなかった劣悪な遺伝子を残すことになる。 地球は残念ながら支配され養殖場化されてしまった。が!。 その中で文男の遺伝子はあの光の効かないガン細胞的な猛威を奮うこととなり、変質進化し同性愛や共食い、 痴呆、暴力、もっとも恐れる宇宙人を食いたがるといった問題を起こし続けた。 又、ある時期変異により肉としか認識のなかった地球人種に毒性が発生し、数100億以上の宇宙人を葬ることになってしまった。
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