たとえば或る者が飲もうとして ひとつのコップを手につかむように そしてあとでそれを授かった者が 片隅に置き なんでもないもののようにして それを保管するように おそらくは運命もまた ときおりひとりの女を 口にあてて飲んだのだ それからひとつのささやかな人生が 彼女をこわすことを恐れて もう使わずに そのいろいろな貴重品がしまってある 小心な硝子戸棚のなかに彼女を置いたのだ こうして彼女はそこによそよそしく 借り物のように立ち 無造作に老いこんで 盲目となり やがて貴重品でもなければ 珍奇なものでもなくなっていた それが世に謂う恋愛であり結婚である。 しかしそれは あるときを境に むずけながら きらめいたり 暗くなったりする 夕暮れともなれば それは一切となり あらゆる星が その中から立ち昇り 胸の奥に仄かな蝋燭の炎をともす。 ライナー・マリア・リルケ *ちょっとだけ改訳しました。
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