夜猫の能力を有する女のそれは神より与えられし力でテトラポッドに囲まれた川を飛び鉄フェンスの僅かな隙間を忍者の様な身のこなしで抜けるが愚か者は彼女を追い高いコンクリート塔の上に残され暗く寒いその場所で絶体絶命状態を後悔し脳裡に凡庸な日常における陽射しに包まれた幸せを思い浮かべるがそこで知る神の真の姿はそれは黒い虫例えるならば腹の裏側の形状が漢字の「用」の字に似て入り組み黒光りするゴキブリの様な虫が連なった百足の如き節足動物に似た醜悪な姿は意志を持たずただ蠢くだけの群体であり一匹一匹が独立して這い曲がりくねる姿を見るだけで眼を背けたくなる嫌悪感と異様な不安感を抱かずにはいられない神から絶大な力を授かった者はその代償として未来を奪われる即ちその時空から個体は抹消されこれまで生きた過去のみを永遠に反復することとなるので能力を持ってして未来に影響を及ぼすことは不可能であり女はこれまで絶対的な孤独の中で限られた時間を無為に繰り返しておりまたこれからも繰り返さねばならない運命でありそして今我が身も同じ陥穽に踏み込んだのだと悟った瞬間に暗転し闇に彼女の笑顔が赤く浮かんだ
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