その夜、私は友人の車に同乗し、深夜のドライブを楽しんでいました。 4WDの新車は快適で、男ばかり5人で会話を楽しみながら郊外へと車を走らせたのです。 運転するのは私より1歳年下の職場の後輩で、後部座席にはやはり同じ職場の同僚が3名、私は助手席に座っていました。 後部座席の誰かが、「肝試しに行こうぜ」と言い出し、他のみなも同調、市街地から山道を入った通称「隠れキリシタンの墓」に行くことになりました。 隠れキリシタンの墓は、地元の若者たちにそう呼ばれているだけで、実際の歴史背景や成り立ちは誰も知りません。 ただ、山奥に開けた丘の上に無数の十字架の墓標がある場所で、肝試しのメッカになっていました。
私と運転手の同僚は初めて行く場所でした。 後部からの指示に従い、車は快調に山道を登っていきます。 夏の終わりの夜道には涼やかな風が吹き、気持ちの良いドライブでした。 やがて、目的地に着いたらしく、道に詳しい同乗者から「そこ、左に曲がって!」と声がかかりました。 車のヘッドライトが墓所全体を照らしました。白い大きな十字架が目に入った瞬間でした。 乗っていた車が窪みにドスンと落ちた感じがして、車輪が空転し、前に進まなくなってしまったのです。 そして、フロントガラスの前を一瞬、白い靄のようなものが左から右へと全景を遮るように流れていきました。 私は運転する後輩に、一言、「バックして戻ろう」と声を掛けました。 ギアをリバースに入れると、スリップすることもなく車はスムーズに元来た道を戻れたのです。 何気なく後輩に尋ねてみました。「何かみえなかった?」 彼が答えました。「見えました。白い着物の裾みたいなのが前を横切りました。」 それからは無言で山道を下ったのですが、後部座席の3人は何も気づかなかったらしく、なんで戻ったんだ?とか、びびりやがって!!とか口々に勝手なことを言っています。 だけど、私は思うんです。あれは、ここから奥へ進むなという墓所を守る精霊からの警告だったのではないだろうかと。 30年も前の話ですが、あの時、その警告を無視して奥へ進んでいたなら、どうなっていたかと思うと、本当に肝が冷えるんです。
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