かつて題名のなかったBLOG

2006年 08月 19日 の記事 (1件)


ここは、デスカウントショップ。
外見では何の店をしているのか、いや、
店を営んでいるのかどうかすら怪しいと言わざるを得ない
謎の店。
そのため、普段は客など来ようはずもなく、
店主はただただ溜息をつくばかりであった。

「はぁ〜‥‥。
ヒマだなぁ‥‥」

深く息を吐き出すのに合わせて、
栗色のツインテールが小さく揺れた。

外はどんよりとした曇り空。
黒いカーテンで仕切られた部屋には
外からの光は一切入ってこない。
そんな真っ暗な部屋の中、
小さなテーブルに置かれたろうそくの炎の前で
ぽつんとひとり、独り言を言う店主。
暗い。

「前にお客さんが来た日から、もう2ヶ月か‥‥。
しかも、結局お客さんを怒らせちゃって
見料もらえなかったしなぁ‥‥」

店主は着ているのも黒のワンピースなので、
完全に周囲の暗闇と同化している。
非常に暗い。

「‥‥」

店主は今、テーブルに突っ伏しているが、
それが急に大きな声で叫びながら立ち上がったりしたら、
さぞかし恐ろしいことだろう。
このままお化け屋敷として
再オープンした方がよいのではないだろうか。

「‥‥ちょっと!
余計なナレーションを入れないでよね!」

店主は突然叫びながら立ち上がった。
‥‥それは客がいるときにやらないと意味がないのに。

「うるさいよ」

店主は、店の入り口に向かって歩き出した。

「宣伝が足りないだけなのよ、きっと!
汚い看板出してるだけじゃなくって、
こう‥‥ビラ配ったりとか、
店の前で呼び込みやったりとか、
そういうの何ていうんだっけ?
ええと‥‥企業努力?
そういうのが必要なわけよ」

微妙に違うような気もするが、
既に店主はやる気になっているらしい。
勢いよく入り口の引き戸を開け放した。

「キャッ!?」

目の前には若い女性が一人。
突然に、しかも大きな音を立てて戸を開けたので、
たまたま居合わせたこの女性を驚かしてしまったのだろう。
店主は、悲鳴の主と目が合って、
戸を開け放した際の、その姿勢を保ったまま固まっていた。

「‥‥」

しばしの間。

「‥‥あのぉ」

以外にも、沈黙を破ったのは驚かされた方の人間だった。

「あ、わ、ご、ごめんなさい!
私、外に人がいるとは思ってなくって、
それで、あの‥‥」

滑稽なオーバーリアクションを披露しつつ、
真っ赤な顔をして、必死の弁明をする店主。
女性は不思議そうな顔でそれを見つめていたが、
やがて、何かを確かめるかのように、
ゆっくりとこう言った。

「あの‥‥このデスカウントショップって‥‥」
「へ!? あ、は、はいあの、
私はここの店主をやってまして、はい、
で、その看板をですね、ちょっと取り替えようかな〜
と思って外に出たら、あなたがいらっしゃってですね‥‥」
「よかったら‥‥、
私のこと、見てもらえませんか?」
「は、はい!? もちろんよろこんで‥‥???」

 ◇

二人が店から出てきた。
外はまだ曇っていたが、
少しずつ日の光が差し込み始めてきていた。

「見ていただいて、ありがとうございました。
おかげで、ようやく理解できました」
「‥‥ええと、こういうケースは初めてなんで、
何と言っていいか‥‥その‥‥
が、がんばってくださいね!」

それを聞いた女性は、クスっと笑った。

「ありがとう」

そう言い残して、女性は歩き出した。
店主は黙って女性が帰っていくのを見つめていた。

すると、なぜか一歩進むごとに
女性の足が、少しずつ地面から離れていった。
と、同時に女性の体も少しずつ透けていくではないか。
女性は、そのまま振り返ることなく、
まるで階段を上っていくかのように
どんどん天へ吸い込まれていき、
やがて、見えなくなった。

「これじゃあ、見料は取れないよね‥‥」

テーブルの上の水晶玉には、
“-234917”と表示されていた。



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久々のショート・ショートでした。
ちなみに「デスカウント1」はこちらです。
この「デスカウント」シリーズが続く‥‥
かどうかは今のところ未定です。
というか、アイデアの神が降りてくるかどうか次第です。
感想をコメントに書き込んでいただけると、
アイデアの神が降りてきやすくなるかもしれませんw
2006 08/19 16:45:59 | ショート・ショート | Comment(0)
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