かつて題名のなかったBLOG

2006年 11月 01日 の記事 (1件)


久々にショートショートを書こうと思ったのですが‥‥
うまくまとまりませんでして。

数エントリに分けて書きます。
そのほうが、更新数を稼げるしね!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

私は時々、近くの森に出かける。
自生している薬草を摘みに行くためだ。
なにせ辺境の村だから、
物も人もごくまれにしか行き来しない。
よって、欲しい物は自分で取りに行くしかない。
本当は城下町で売られているという、
魔法の治療薬が手に入ればいいのだけれど、
そもそもお金がないから、
私には買うことができないだろう。

村の人のなかには、
「外に出ると怪物が襲ってくる」などと
脅かしてくる人もいるが、
それは多分、子供を躾けるための迷信のようなものだろう。
もしかしたら私が女だから、
心配してくれているのかもしれないけれど、
私だってもう17歳になったんだし、
いつまでも子ども扱いするのはやめて欲しいものだ。


森はいつものように静かだった。
鬱蒼と生い茂る木々は、太陽の光をほぼ遮断し、
時間の感覚を狂わせる。
奥へ進んでいくと、程なく小さな泉が現れる。
薬草はそのほとりに生えているのだ。
私は持参したかごがいっぱいになるまで薬草を摘んだ。

泉の水がわずかな木漏れ日を反射してキラキラ輝いていた。
私は、時々そうするように
靴を脱いで泉に足先を浸してみた。
ひんやりして、すごく気持ちいい。
私はそのまましばらく、
何も考えずにぼんやりとしていた。

しかし、ふと、誰かの視線を感じた気がした。

息をのみ、動きを止める。
森はいつものようにしーんとしていた。

「誰かいるんですか?」

視線は森のさらに奥から感じた。
私も、この泉より奥へはさすがに入ったことはない。
辺りを伺いながら薬草の入ったかごを手元に引き寄せる。

「だ、誰かいるなら返事をして下さい!」

返事はなかった。
当然だ。今まで何回もこの森に来ているが、
私以外の人に出会ったことはなかった。
静かに泉から足を抜いて、濡れた足のまま靴を履いた。

ふいに、「怪物」という単語が頭をよぎった。

まさかね‥‥。

「な、なんだ‥‥気のせいかしら?」

立ち上がりながら、強がってそう言ってみせた。
頭によぎった思いを打ち消したかった。
村の人の言う迷信を信じたくなかった。

しかし、そのとき私の思いもよらないことが起こった。

「‥‥そ、そうです。きのせいです。」

返事が返ってきた‥‥。
しかし、言いたいことの意味が分からない‥‥。
私の頭はうまく回らなくなってきた。
とにかく、逃げよう。
返事をしてきたのが、誰かは分からないが、
これは係わり合いにならないほうがいい。
私は相手を刺激しないように
ゆっくりと振り向こうとした。

「あ、待って! 逃げないで!
 私の話を聞いてください!」

そう聞こえると同時に、
私の目の前に何かが飛んできた!

「ヒッ!!」

思わず目を閉じて顔を背けてしまう。
怖い、怖い、怖い!
怖くて目が開けられない。

「脅かしてしまってごめんなさい。
 私、きのせいです。」

思い切って目を開けると、
そこには、手のひらぐらいの大きさの
背中に羽が生えた女の子が空中に浮かんでいた。


(続く)
2006 11/01 15:57:16 | ショート・ショート | Comment(0)
Powerd by バンコム ブログ バニー