2013年 12月 28日 の記事 (1件)






雪に変わるのだろうか。

凍りついた師走の梅田
地下通路を
渇いた風が通ってゆく。

午後18時、
阪神電鉄梅田駅
地下一階西改札口、
地下街の雑踏の中
コムデギャルソンの黒いロングコートの襟を立て、
ラム革の黒い手袋の感触を
開いたり
握ったり確かめながら待っていた。

左手首、
ポールスミスの紅い文字盤を
気にしながら
15分後、
階段の上
赤と緑に色分けされた
大きな手提げ袋が上下に揺れると、
真っ白な吐息を白桃色の顔にまといながら、
君が駆け降りてきた。

切符はもうトキオクマガイの
太いグレーと白のストライプジャケットの
左内ポケットの中、
葡萄酒色の煙草に添えてある。

漆黒色のパンツの左のポケットには
三和銀行のATMから下ろしたばかり12万円、
右のポケットには百円玉と十円玉がいくつかが、
スターリングシルバーのジッポーとからんでいる。

きつく締め過ぎたのだろう
コムデギャルソンオムパルスの
チャコールグレーとライトグレーの
vertically-stripedネクタイ
すこしだけ息苦しい。

テナーサックスとピアノの
バラードがどこからか
風に運ばれてきた。
聖夜なんだ、
奇跡のひとつも起きてくれるだろうか。

改札をぬけて三宮行きの特急にとび乗る。
会話のない沈黙でさえ
独白の息遣いに後押しされる
スローモーション
まばたき
ためいき
鼓動が奮い
意識が媚薬にひたると
時間が戻ってきた。
阪神電鉄三宮駅到着。
改札をぬけると、
街は
夜空までも
燃え尽きるタングステンのように
絢爛たる華燭が彩られていた。
夜は予感に似ているって
ふと想う。
いつもいつも暗いからだ。

 それぞれに春が来るように
 それぞれに秋がやってくる。
 だから夏と冬は、
 いつもとどまっていたのだ、
 この胸のときめきとともに。
 ほんの少しの奇跡をかくしながら。

ホテルの予約は半年前、
これでも間に合わないんだよって、
君は電話ボックスにこもっていた。
神戸そごうでケーキを買おう。
食べきれないくらいの大きなホールを。

オールマンブラザーズの
岌(きゅう)たるリードギターが
ホテルの分厚い壁を弾いていた。
ふたりは抱きあいながら、
橙色の華燭に魅入られていた。

突然ドアをノックする音。

彼女が出るとサンタさんだった。
赤ら顔で背には大きな白い袋。
メリークリスマス!
このホテルのサービスなのだろうか、
彼女は気絶しそうなくらい驚いて
倒れそうになる。

サンタは
おおお
ご免なさい、
驚かせてしまったようだね、
ほれ
これをあげるから許してくれないか?

背から下ろした袋から
何かを取り出した。
それはなんということだろうか、
あの
抱っこちゃんだった。
昔母がサンタからプレゼントされたって言っていた
抱っこちゃん。
彼女はますます驚いて

なにこれ?

そんな表情で振り返りながら問うまなざし。
話してなかったんだ、
あの夜の奇跡はだれにも。
サンタはにやりと笑うと
おもむろに顎に手をやり
仮面をはずした。
中からフロントで会った支配人が。
申し訳ありません
メリークリスマス、
どうか今宵素晴らしい夜をお過ごしください。
そういうと、
またサンタの仮面をつけて
大きな袋を背負った。
深く礼をしたあと、
ドアは閉じられた。

私は驚いていたんだ。
こんなことがあるなんて、
なんで今どき抱っこちゃんなんか
どこを探したってあるわけないのに、
考える間もない、
体がはじけた、
え?
という顔をした彼女を残してドアを開け
廊下に出ると、
数メートル先にサンタの仮面が落ちていた。
その向こうに白い大きな袋。
どこへ行ったのか、
支配人はいなかった。

不承不承、
部屋に戻り、
フロントに電話して
支配人を呼んだ。
支配人は傍らにいたようで、
すぐに電話口に出た。
ありがとうございました、
驚いたけど最高のクリスマスプレゼントでした、
そう云うと、
支配人はなんのことでしょう?
説明すると、
申し訳ありませんが
当ホテルではそのようなサービスは行っておりませんが、と。
その時、
彼女が叫んだ、
見てほらトナカイが空を飛んでる!!
まさか、と窓をのぞくと、
赤いソリに乗りトナカイたちを御するサンタが
愉快に手を振っていた。
心に響く声、
また会おうと。

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嘘だろ、

支配人のもしもしという声が感動に掻き消されていた。
そして彼女がしっかり抱きしめていた
抱っこちゃんを見やる。

かあさん、
ほらまたサンタさんがプレゼントしてくれたよ。

彼女が泣いていた。
どうしたんだ?
だって信じられないもの見たんだもの、
これって奇跡だよね、
でもね何故抱っこちゃんなの?

遠い昔のあのイブの話をしてあげると、

じゃもうひとつサンタさんはプレゼントしてくれたよ、
ニヤリとウインクひとつ、
なんだい?
細い指でおなかをさすり、
ここに
赤ちゃんがいるのよ。
あたしたち祝福されたのねサンタさんに。

またサンタの声が
心に響いてきた。
快活な哄笑とともに
また会おう。


イブの夜の不思議な不思議なお噺、
いかがでしたか、皆様

 万感の想いをこめて
 ”メリークリスマス”




2013 12/28 11:35:38 | none
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