病んだ町をみおろしながら
   野兎が吹き鳴らす
   草笛のようにわらう
   そんな壊れやすい午後に
   君が好きだ

             よしだたくろう

 壊れやすい午後、
 野兎は草笛を吹き鳴らしながら、
 病んだ人々を嗤っていました。

 甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸。
 商のひとたちは、太陽は10個あり、それぞれに名をつけました。
 このひとめぐりの時間を掌統するのが、
 「旬」という神であったそうです。

 天空の旬は野兎にこうささやきかけました。
 「青と赤の草笛を編みなさい」と。

 青は「復活」の色であり、死者の魂を呼びかえす色でしたし、
 赤は、火が赤、木のあかは朱、土のあかは丹で、
 「いのち」の色でした。
 
 野兎は朱と丹を火であぶり、
 若草を煮て青い染料を抽きました。
 あまった赤を染料にまぶし、
 かき混ぜると紫の砂になります。
 さらに水を加えて、
 草笛をつくりました。

 病んだ町は丘の上から聞こえてくる笑い声に耳をすまし、
 死者たちの舞いを観ました。
 それは蜃気楼のように、
 おぼろげで、
 かすかで、
 ほのかに切なく、
 くすんだ笑顔の下にある、
 くるしさとか、
 かなしさとか、
 やるせなさとか、
 わびしさとかを、
 それぞれの胸にふつふつ去来させました。
 
 その幻影はあたかもしずかに語りかけるように
 こうつぶやいているようでした。

 だいじょうぶですよ、
 あなたが愛したあのひとは、
 いまもこうして丘の上で、
 あなたを憂えています。
 しっかりしなさい、
 あきらめないで歯を食いしばって、
 たたかいなさいと。

   病んだ町をみおろしながら
   野兎が吹き鳴らす
   草笛のようにわらう
   そんな壊れやすい午後に、
   君が好きだ。
   

 

 
 
2009 06/14 16:27:14 | none
Powerd by バンコム ブログ バニー