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――誰だ、この門を閉ざしてしまったのは……
主体共が世界に疎外されて久しいが、ぶつぶつと彼方此方でその不満を呟く主体のざわめきが何時しかこの世に満ちてしまったのだ。
――ハイデガーの言った『世界=内=存在』は嘘だったのか ! !
――馬鹿めが。お前らが『世界=外=存在』の世界を好んで選んだのではないか。
現代人ならば誰でも抱へる疎外感。それが何処からやってくるのか暫く解らなかったが一人の主体が自身の姿を鏡で見て驚いたところからその謎が解け始めていったのである。
――これは ! ! 轆轤首ではないか……。
――その轆轤首は誰かね。答へ給へ ! !
――……。
――逃げずに答へ給へ ! !
――わた……、……しかな……。
――良く聞こへなかったがね。もう一度はっきりと言へ ! ! お前は誰だ ! !
――わ……た……し……、ちぇっ、『私』だ。
――もう一度。
――私だ。間違ひ無い。『私』以外の何者でもない。私だ。
さて、轆轤首は歩けるのだらうか。眼玉が伸縮自在な蝸牛から連想するに轆轤首が全く歩けない哀しい存在だといふことは想像に難くない。
――お前に尋ねるがお前の世界認識の基盤になってゐるものは何だね。
――哲学……かな……。
――否 ! !
――ふむ……。……か……が……く……かな……。
――そうさ、科学だよ。科学が創った客観が支配する世界観に於いて主体の演じる役目は何かね。
――ふむ。……観察者……かな……。
――そうだ。観察者は何時も客観世界の何処にゐるかね。
――ふむ。……が……い……ぶ……、外部だ。
――はっは。もうお前も解っただろ、この世の仕組みが。
便利を受け入れ始めたときに既に主体が世界から疎外されることは必然だったのである。今では可笑しくて仕方が無いんだが、態々世界を『外部化』するためにCameraで世界を写し画面を通して世界を見る馬鹿なことが『普通』になってしまった摩訶不思議な世界に人間は暮らしてゐるのである。そして、『仮想世界』などと喜んで世界にKeybordなどの装置を通して間接的にしか世界に参加できないことが進歩だと思ってゐるのである。全く馬鹿としか言ひ様が無い。何せ夜空も見上げるのではなく前方にあるMonitorといふ装置を通して見る生き物だから、人間は。
――さあ、主体共よ、立ち上がる時が来た ! ! 蜂起だ ! !
――おう ! !
しかし、轆轤首と化した主体が歩けるはずは無く、皆歩かうとすると直ぐ転ぶ醜態をさらすしかなかったのである。
――先ずは這い這いから始めろ、へっ。
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