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例へば、関数

は
x = 0 で

に発散し、定義されないので、このとき x = 0 は特異点であるといふ。
《出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)の特異点の項より》
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さて、此の世の時空間に物理学上の特異点は存在しないのかと問はれれば、即、Black holeに存在するが『事象の地平面』で覆はれてゐるため一般的な物理法則の、例へば因果律などでは全く問題ないと教科書的には即答出来るが、しかし、ここで特異点なるものを夢想すると何やら面妖なる『存在』の、若しくは『物自体』の影絵の影絵のその尻尾が捉まへられさうでもある。
先づ、±∞から単純に連想されるものに合はせ鏡がある。
二枚の鏡を鏡に映す事で恰も無限に鏡が鏡の中に映ってゐるが如き幻影に囚はれるが、それは間違ひである。鏡の反射率と光の散乱から鏡の中の鏡は無限には映らないのは常識である。
だが、二枚の鏡をゆっくりと互ひに近づけて行き、最後に二枚の鏡をぴたっと合はせてしまふと、さて、二枚の鏡に映ってゐる闇の深さは『無限』ではないのではなからうか。
――眼前に『無限』の闇が出現したぜ。
眼前のぴたっと合はせられた二枚の鏡の薄い薄い時空間に『無限』の闇が出現する……
――其の名は何ぞ
――無限……
――無限? ふむ……。其に問う、『此の世に《無限》は存在するのか?』
――ふむ。存在してゐると貴君が思へば、吾、此の世に存在す。しかし、貴君が存在してゐないと思へば、吾、存在せず……
――すると、己次第といふことか……唯識の世界だな……
さて、瞼を閉ぢてみる。
――眼前の薄っぺらい瞼の影もまた『無限』の闇か……
すると、闇は闇自体既に『無限』といふことになる。
――光無き漆黒の闇の中には無数の『存在』が隠れてゐる……か……
さうである。闇は何物にも変幻自在に変容し吾の思ふが儘に闇はその姿を変へる。
――何たる事か ! !
――へっ。吾、闇は、水の如し……だぜ。
――するとだ、其はその薄っぺらい薄っぺらい闇自体に全存在を隠し持ってゐる、へっ、例へば創造主か……
――……
――神、其れは『闇』の異名か……、ちぇっ。
私は其の瞬間、眼前の二枚の鏡を床に擲ち、粉々に割れた鏡の欠片に映る世界の景色をじっと何時までも眺め続けたまま一歩も動けなかったのであった……