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――ゆあゆあ……ゆあ……ゆあゆあゆあ……じっじっじー……ぽっぽっぽ……
飛んで燈にいる夏の虫。何処からともなく此方に飛んできてゆるりゆるりと眼前の蝋燭の燈の周りを渦を巻くように何回か巡り小さな羽虫が蝋燭の炎に焼かれた……。
――ゆあ……ぽっ……ゆあゆあゆあ……
複眼を持つ昆虫は光線に対して直角に進むやうに『仕組まれて』ゐるので蝋燭の炎に飛び込み焼け死んだあの小さな羽虫は『直進』してゐたにも拘はず『渦』を描いてゐた。
――あの小さな羽虫もまた蝋燭の燈に魅せられてしまったのか……
――ゆあゆあゆあ……ゆあゆあゆあゆあ……ぽっ……
不意に眼前の蝋燭の炎が揺れた。
――揺らめく……揺らめく……世界が……揺らめく……
眼前の蝋燭の炎を中心とした『渦時空間』に死者たちの魂もまた魅せられてその蝋燭の炎の周りを巡ってゐるのか……。
――ゆあゆあ……ぽっぽっぽっぽっ……ゆあゆあゆあゆあ……
陰翳が絶えず移ろふこの『渦時空間』こそ、死者たちの祝祭の場……。
――眼前の蝋燭の炎は吾の命の『炎』なのか……死者共が吾の『炎』を酒の肴に喰らってゐるではないか……
この蝋燭の炎の『ゆあゆあゆあ』といふ揺らめく輝きは死者共の哄笑で満ちてゐる憩ひの場。そして、また、吾も清浄なる死者共の祝祭に招かれし。
――わっはっは。
死者と戯れしこの無上の時間。そして……終焉の時。
――ふうっ。
吾は己の命の『炎』を自ら吹き消したのだ。
――何なのだらう、この静謐なる心地よさは……
闇の中、吾の網膜に残る蝋燭の炎の残像を吾は己の命を慈しむやうにずうっとずうっと眺め続けてゐたのであった。
――吾、未だ、苟も生かされてしまってゐるのか。祝祭だ、祝祭だ、吾の生に乾杯 ! !
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