思索に耽る苦行の軌跡
――えっ、自由か……、それが私には解らないのよ。そうね、例へば、主君の死に殉じて自ら殉死する人々、一遍上人は禁じてゐたにも拘はらず一遍上人の死に殉じて入水(じゅすい)した僧や癩者達、そして《死の自由》の狂信者としてドストエフスキイの作品《悪霊》に登場するキリーロフ等々、何れも《何か》の《殉死》だけれども……う〜ん……《自由》の問題を考へると私は如何しても《死の自由》に行き着いちゃうの……。どれも極端だけどもね。

ここで私は雪に『一寸』といふ合図を右手で送って鞄から或るMemo帳を取り出してバクーニンが草稿を書きネチャーエフが補足したといはれてゐる『革命家の教義問答』を雪に読ませたのであった。その内容はかうだ。

【革命家は既に死刑を宣告された者である。彼は個人的な興味も個人的な感情も持たない。彼自身の名さへ持たない。彼は唯一つの観念を持ってゐる。革命がそれである。彼はこの教養ある世界のあらゆる法律、あらゆる道徳律と断絶してゐる。彼がその世界の一部である如くに振舞ひながらその世界の中で生活するのは、唯只管その世界をより的確に破壊するがためである。この世界の中の全ての事物は等しく彼にとって憎むべきものでなければならない。彼は冷ややかでなければならない。彼は常に死ぬ用意をしてゐなければならない。彼は苦痛に耐へる訓練をしてゐなければならない。そして、自己内部のあらゆる感情を圧殺するため絶えず備へてゐなければならない。彼の目的を妨げる怖れのある時は名誉の感情さへ含めて、彼は唯その目的に貢献する者のみに友情を感じて差支へない。彼はより低い能力を持った革命家達を唯消費すべきところの資本と看做さねばならない。もし同志が危難に陥った時は、その運命は彼の有益性と、彼を救ふために必要な革命勢力の消費度によって決定されねばならない。支配する側については、革命家はその構成員を、その個人の悪しき性質によってではなく、革命の大義に害悪を齎す様様な度合に応じて、区分しなければならない。最も危険なものは直ちに除かれねばならない。けれども、そこには次のやうな他の部類に属する者がゐる。その或る者は、放任されたままでゐる限り、怖るべき所業を敢行し民衆を昂奮せしめることによって革命の利益を促進し、また或る者は、恐喝と脅迫によって大義の目的に役に立ち利用され得るのである。自由主義者の部門は、彼等の方針に一致するかの如く彼等を信じしめ、それによって、こちらの方針をもまた容れることを妥協せしめながら、彼等を利用せねばならない。他の急進主義者については、多くの場合彼等を完全に破滅せしめる行動に駆り立てねばならない。そして、稀な場合、それが彼等を革命家に仕立てあげるのである。革命家の唯一の目標は手を使う労働者達の自由と幸福であるが、この事態が唯全は全破壊的な、全人民の革命によってのみ成し遂げられることを考慮して、革命家は全力を傾倒して人民がついに忍耐心を失うに至るだらうところの全ての悪行を推し進めなければならない。ロシア人は、西欧諸国において一般化してゐる革命の古典的な形態、つまり、財産に対し、また、所謂文明と道徳による伝統的な社会秩序に対して常に足踏みし、そして国家を唯別の国家によって置き換へてゐるところの革命の古典的形態を断乎として拒絶しなければならない。ロシアの革命家は国家を、その全伝統、全制度、全階級とともに、根こそぎに廃絶しなければならない。かかるが故に、革命を醸成するGroupは人民に対して如何なる政治的組織をも上から押し付けやうと試みないであらう。未来社会の組織は、疑ひもなく、人民自体の中から生まれる。吾々の事業は唯恐怖すべき、完璧な、全般的な、無慈悲な破壊を為すことにある。そして、この目的のため、大衆の頑固に反抗する諸部分を結合せしめるばかりでなく、ロシアにおける唯一の真実な革命家であるところの法の保護を失へる全ての者達の不屈な集団を団結せしめばならない。】(埴谷雄高著「埴谷雄高ドストエフスキイ全論集」【講談社】の参照より)

*******どう ? つまり、これもまた《自由》の一形態だが……

――ネチャーエフが《悪霊》のスタヴローギンのModelだとは知ってゐたけれども『革命家の教義問答』を読むのは今日初めて……。

******つまり、《自由》は冷徹非道性を必ず備へてゐなければ、つまり、それは《自由》として取り上げるに値しない……つまり、《自由》は、つまり、そもそも《残虐非道》なものに違ひない……と思ふけれども、つまり、君は、如何思ふ ?

(以降に続く)
2007 09/23 16:03:58 | 哲学 文学 科学 宗教 | Comment(0)
Powerd by バンコム ブログ バニー

この記事へのコメント

この記事にコメントする

名前:
メールアドレス:
URL:
セキュリティコード  
※セキュリティコードとは不正アクセスを防ぐためのものです。
画像を読み取り、入力して下さい。

コメント:
タグ挿入

サイズ
タグ一覧
Smile挿入 Smile一覧