金曜の夜帰る

   白い長椅子で横になり
   BlondieのMariaを聴きながら
   大沢在昌の天使の牙を読んでいたら
   ヒロインの神崎はつみがどうしても
   だれかに似ている気がしてきて
   気になって気になって
   どうしても思い出せない時に
   ふと窓辺の
   うすくれないに小さな花をつけた木瓜の小鉢を見つけたら
   約束を思い出したんだ
   小説は
   まだ2章しか書けていなかったけど
   ひょんなことで思い出しちゃって
   まったりもしてられなくなってさ
   ヒロインがだれに似ているかなんて
   すっかり忘れちゃって
   煙草をくわえながら
   メールボックスをくまなく探したよ
   どこかにあったはずさ
   見逃さないようにひとつひとつ件名を読みながら
   見つけた時には日が暮れていた
   そうだったね
   君だったんだね
   似てたんだ
   はつみがもっていた容姿ではなく
   あらがえなかった彼女の月日が
   君に似てたんだ
   だから
   君と
   そんなにはっきり
   約束したわけじゃないけど
   スターリングZippoで火をつけて
   深く吸いこんだ紫煙がまどろむと
   肩の力が抜けたみたいにさ
   なんだか無性に逢いたくなってきて
   胸がうすくれないに満ちあふれ
   マフラー巻かなきゃね
   外は今夜も冷えている
   煙草とライターと鍵と皮の手袋
   ステューシーのダッフルコートを羽織って
   あわてない
   ゆっくりとゆっくりと
   満ちてく月でも見上げながら
   金曜の夜帰る

    だいじょうぶだよ   
     ふところのナイフは研いでないから
2009 08/16 11:48:18 | none
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