
金曜の夜帰る
白い長椅子で横になり
BlondieのMariaを聴きながら
大沢在昌の天使の牙を読んでいたら
ヒロインの神崎はつみがどうしても
だれかに似ている気がしてきて
気になって気になって
どうしても思い出せない時に
ふと窓辺の
うすくれないに小さな花をつけた木瓜の小鉢を見つけたら
約束を思い出したんだ
小説は
まだ2章しか書けていなかったけど
ひょんなことで思い出しちゃって
まったりもしてられなくなってさ
ヒロインがだれに似ているかなんて
すっかり忘れちゃって
煙草をくわえながら
メールボックスをくまなく探したよ
どこかにあったはずさ
見逃さないようにひとつひとつ件名を読みながら
見つけた時には日が暮れていた
そうだったね
君だったんだね
似てたんだ
はつみがもっていた容姿ではなく
あらがえなかった彼女の月日が
君に似てたんだ
だから
君と
そんなにはっきり
約束したわけじゃないけど
スターリングZippoで火をつけて
深く吸いこんだ紫煙がまどろむと
肩の力が抜けたみたいにさ
なんだか無性に逢いたくなってきて
胸がうすくれないに満ちあふれ
マフラー巻かなきゃね
外は今夜も冷えている
煙草とライターと鍵と皮の手袋
ステューシーのダッフルコートを羽織って
あわてない
ゆっくりとゆっくりと
満ちてく月でも見上げながら
金曜の夜帰る
だいじょうぶだよ
ふところのナイフは研いでないから