営業の外回りに連れて行ってもらった。計3社。どれも何度か行ったことのある会社だ。 2社、受注が取れた。入社して9ヶ月以上。やっとやっと受注というものが見られた。しかも一日に2社。すごい事だ。合計一千万近い。ここではかなりの額だ。 そのうちの1社はかなり粘って何度も何度も通い、日本人社長が日本本社にも赴いたりしてやっととれた。もう1社はよっぽど必要としていたのか、気味が悪いくらいの即決だ。 2社とも、私が嫌々何百件もセールス電話をして出会った会社だ。あの時は辛かったが、胃を傷めた甲斐があったというものだ。 受注は取れたものの、やはり詳しい打ち合わせの内容は分からない。そう言ったことから考えると、私がこれ以上営業部を名乗っていても、発展性はない様に感じる。 大漁なお土産を持って会社へ戻った。だが個人主義の社内では、関係者だけ気分よく帰るだけだ。それに今日いきなり買います、と言われた訳ではなく、数百万の買い物なので話はだんだんと煮詰まっていく。従って社内ではそういう話題で盛り上がったりはしなかった。 夕方は案の定授業は潰れ、昨日の日本採用の大学生らが手続きに来た。運悪く部長が会議中で、技術の学生と日本人社長の通訳者がいなかった。私は、営業志望のペラペラ君がするものだろう、と思っていた。が、中国勤務の営業君に日本勤務の技術君の通訳なんかやらせたら、給料などバレバレである。そりゃ相当マズイ。んな訳で社長の目は(仕方ないかチックに)私に向いた。 ・・勘弁してくれ・・「いい天気ですね」レベルの会話しなら任せてくれ。でもビザ手続きやら行政機関登録の話なんて分からん。が、仕方ない。馬がいないから犬に乗ろう、って事だ。確かに犬でもいないよりはましなのかもしれない。 5人で机を囲み、ぎこちない会話が始まった。私は一応、双方が何が言いたいのかは大体分かる。が、大体では通訳はなかなか難しい。日本人も中国人も、好きなようにペラペラ話す。もうちょっと努力して話せないのか。一文一文区切れや。 社長も学生も立場や国籍の違いから、なんとなくお互いにとってはトッピなことを言っているのが分かる。でもそこまではカバーしきれないし、足りない頭を精一杯使い、それを滅茶苦茶な中国語や日本語に変えていた。 結果、思うように会話が進まない。みんなの視線が突き刺さるようだった。ただでさえ技術君3人組は不安を抱えている。これからいきなり知らない国に行くのだ。社長も知らない外人を来させて業務を拡大させるのだ。そこで滅茶苦茶なことを言われてたらたまったモンじゃないだろう。 社長は会議中の部長を呼んできた。部長を見たときの皆の安心した顔。言葉よりもずっと分かりやすかった。 言葉だけでなく、部長なら中国国内の内情、手続きの仕方も分かる。社長と部長はもう知れた仲だから日本語も通じやすい。 私は恥ずかしさと自己嫌悪で赤面し、その場を離れてしまった。 やはり馬じゃなきゃダメなんだ。犬には乗れない。 自分の席に戻ったら、営業志望のペラペラ君がまだ社員と話していた。どうやって日本語を勉強したか聞いてみたら「普通です」と返ってきた。普通って何だよ普通って。その「普通」を追求したら、彼は解答に困っていた。やはり一日が100時間の秀才と一日が10時間位しかない様なアホとでは会話が成立しないのか。笑 自己嫌悪はどん底ピークに達し、帰ってワインでも嗜もう、と思いきやコルクが硬すぎてどうしても開かず、仕方なくお茶をついだら熱湯を手にぶっ掛けてしまい火傷、まさに泣きっ面に蜂のオブジェだった。 感情が極端に上がり、極端に下がった一日だった。
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