2009年 08月 の記事 (3件)

     ゆうべはさみしさにふるえて
     眠って夢を見た
     もつれた糸のように
     あなたとわたしとだれかと
     過ぎ去れば思い出になる
     今をちょっと耐えれば
     わたしはここにいるわ
     いるわ

     終わりのない歌を
     うたっているのは
     わたしです
     ときには声かすれ
     ひとには聞こえぬ歌です
     でもいまがいちばん好きよ
     すこし曇り空でも
     だれかわたしを抱いて
     抱いて

                       惣領智子
 
           



   ツンデレとは、ツンツンデレデレのことらしい。
  ツンツンは、高慢・冷酷な態度をとる行為で、
  デレデレとは動作・態度・服装などに締まりがなく、だらしないさま、
  もしくは異性に心を奪われたり愛情におぼれたりして
  毅然とした態度がとれず締まりがないさまをあらわすのですが、
  東京秋葉原には、ツンデレ喫茶なるものがあり、
  その意味はうねり狂う波にあらわれて擬態を表するにいたります。
  珈琲だけではなく会話(でしょう、きっと)も楽しめるという空間概念は、
  懐かしいなぁ、
  ウッドアートカフェがそうでしたね。
  

   さて、前置きはこの辺にして、本編にとりかかりましょう。


   10歳まで育つ環境、親との関係などが、
  人格形成に多大な影響を及ぼすのは多くの学者が説くところでしょうし、
  完全否定しうる逆説がもっかのところ発表されていない以上、
  全てではないが、限りなく全てに近い影響は受けるものと考えられるでしょう。
  南原は某国立大学文学部の教授です。
  厳しい父母・祖父母に育てられました。
  好奇心旺盛な幼児期を厳格なる完全管理の基に行われた教育の集積が
  彼の人格形成をどのようにととのえたのか、
  彼のその後の人生に必ず相応するでしょう。
  南原は53歳の現在まで、独身でした。
  年に数回依頼される講演が秋葉原の文化スクールで開催されます。
  今回は「現代フランス文学」について、日仏文化財団主催で2時間講演します。
  午後18時、南原はオタクの街と化した秋葉原を散策しました。
  講演後の熱を冷ましたかったのかもしれません。
  途中咽の渇きを覚え喫茶を探しました。
  どこでもよかったのですが、なんとなく惹かれたロゴは、
  メイドカフェ白山。
  雑居ビルの2階にあがり店の扉を押し開くと、
  「いらっしゃいませ!」
  若い女性の輪唱に迎えられます。
  ウエイトレスとおぼしき数人の女性が60度の角度で辞儀。
  そろいのメイド服に身を包み華やいでいます。
  異次元に迷い込んだような不安と動揺が
  瞬時に理性を喪失させ
  四肢を膠着させました。
  席に案内されメニューを渡されます。
  「コースはどうなさいますか?」
  丁寧な言葉遣いです。
  南原は感心しながらメニューをのぞきました。
  各コースが1000円で、
  お姉さまとコーヒーとかツンデレどぇすとか、
  でれでれメイドとか書かれてありますが、
  さっぱり理解できません。
  困惑しながら「お奨めはどれですか?」
  問うと、
  「当店のお奨めはツンデレどぇすコースです」
  とメイド服のウエイトレスは微笑みながら応えます。
  金髪でした。
  幼く見えますが、
  目鼻立ちはすっきりしていて一重の目が澄んでいます。
  短い何重にも重なったように見えるフリルだらけのスカートからのぞく脚は、
  白磁器のような質感でスラリと長い。
  「それでお願いします」
  南原はオーダーしながら観察していました。
  数分後、
  ガチャンという陶器音とともに珈琲がテーブルに置かれます。
  テーブル一面に黒琥珀色の滴が散りました。
  「ほら、持ってきてやったよコーヒー」
  豹変です、
  「は…」
  「は、じゃねぇよ、ありがとう、だろ?」
  「あ…ありがとう」
  「ミルクは入れるの?砂糖はどうなの?早く言えよ!」
  えらい剣幕です。
  「ミ、ミルクを…」
  「まったく愚図なんだから、こっちは忙しいんだからね」
  「…申し訳ない」
  「コ難しい本ばかり読んでるとドンドン白髪が増えるよ。
   おじさん、煙草吸うの?」
  大事なランボー詩集の原書に珈琲こぼしたのは君じゃないか、
  などと南原は、独白しながら、
  「吸いません」
  「あ、そう。なにか追加あったら声かけて」
  少女は去っていった。
  珈琲は正直美味しくはなかったはずですが、
  たとえ美味しいとしても味わうことはできません。
  繊細な味覚が麻痺するほど鼓動の高鳴りがやまなかったからです。
  読書にも集中できなくなりました。
  ドン!という衝撃とは違う、
  これまで体験したことのない
  鋭利な日本刀で身を裂かれたあとに噴き出す血のような感情が、
  みるみる南原を支配しはじめていましたが、
  彼にはそれがどういう情念に根ざすのか解かりません。
  味気ない珈琲を休みなく啜り飲み干しただけでした。
  「どうしたの元気ないわよ」
  少女がいつの間にか傍に立っていました。
  「あ、いや、も、もう帰るから」
  狼狽して舌がもつれてしまいます。
  「さっきはひどいこと言ってごめんなさい。
  ほんとは素敵な人だなと思ってたんだけど、
  つい汚い言葉を投げかけてしまったの」
  いくぶん首をかしげて満面の笑みには謝罪と慈愛が見えました。
  「わたしミューって言うの。また来ていただけたら嬉しいわ」
  頬に紅がさしています。
  「いってらっしゃいませご主人様!」
  南原は照れながら優しい声を背に店をあとにした。

  購入総額がきっちり1億円だった地上12階のマンション、
  リビングで、ワイングラスにブリジッドボルドーをなみなみと注ぎ、
  英国から取り寄せたカウチソファーに横たわり、咽を潤す。
  カマンベールチーズをかじりながら、
  南原は惚けるように夜空をながめていました。
  夜空はどこまでも深く紫紺になずみ、
  ちりばめられた星のきらめきが馳走でした。

  電話のベルで仮寝を破られます。
  受話器を取り上げて耳にあてると、
  「もしもし南原さんのお宅ですか?」
  若い女性の声、
  「はい、そうです」
  「あ、先生ですか?あたしですミュー、メイドカフェ白山の」
  「はい、覚えていますよ」
  「先生、手帳と免許証なくなってない?」
  「あ、待ってください確かめます」
  南原は寝室のクローゼットに吊り下げられた背広の内ポケットを調べます。
  ありません、スケジュールを書き込んだ手帳と運転免許証が。
  「はい、どこかに落としたようです」
  「ここにあるもの、今から持っていこうか?」
  「いえ、明日、お店に伺いますからその時にでも」
  「ベランダに出て下を覗いてみてよ」
  言われた通りベランダから見下ろすと、
  「おーい!!」
  金髪の彼女が玄関ポーチの両脇に花壇に座り手を振っています。

  「大学の先生だったんだね、あ、ごめん、手帳の中見ちゃったんだ」
  「かまいませんよ、それよりも、わざわざ届けてくれてありがとう」
  「うーん、この珈琲美味しい」
  ガーナ産のモカ・マタリでした。
  「どうしてあんな店に来たの?」
  「いや、あんなコンセプトの店だと知らなかったんです」
  「楽しかった?」
  「い、いや、パフォーマンスはともかく、君と話せて楽しかった…」
  素に戻る彼女。
  「あ、別にそういう意味じゃなくて、とにかく、君のことが印象に残った…」
  彼女が立ち上がり、食卓にのぼり猫のように這いながら、
  南原の肩をつかんで降りると脚を開いて膝の上に坐りました。
  「あたしも先生のこと好きになっちゃったんだ、ホントよ、オタクの若い客
   ばっかでウンザリしてたの、だから先生がとても新鮮だった」
  汗が止まりません。
  鼓動は高鳴り声も出ませんでした。
  「あたしと寝てみる?」
  返事は彼女の口唇に奪われてしまいました。

  その夜からひと月が過ぎました。
  ミューは毎週土曜日に南原の家を訪れ日曜の朝帰っていきます。
  南原にとって初めての女性でした。
  これが恋なのか、曾て経験したことのない世の中の事象すべてが
  鋭敏に反応してしまう感性がありました。
  月を見ても、雨を見ても、雑踏に咲く花でさえ、
  はかなげで愛おしく思えてしまいます。
  吹きつける風に彼女の匂いをかぎ、
  目をつぶると裸になった彼女の放恣な影が明滅します。
  南原は物思いに耽るようになっていました。
  そのさまを比喩する美しい字句がありますね、
  そう、南原は、惚(ほう)けていた、のです。

  そんな或る日、マンションの一階ロビーにある郵便ポストに、
  宛名と差出人のない茶封筒が投函されていました。
  部屋で開封すると、たくさんの写真が入っています。
  南原とミューとが全裸で抱き合い愛し合う生々しい画像でした。
  「いったい、誰が…」
  4つ折りの紙片にメッセージが印刷されていました。
   ”ネガを200万で買ってください。金は3日後までに用意し
   4日後渋谷のハチ公前午後9時に持ってきてください。
   警察へ報せればどうなるかは言うまでもないですね”

  南原は定期預金を解約し、
  4日後、渋谷のハチ公前で背中から振り向かないようにと指示する男に、
  金を渡し、ネガとCDを貰いました。
  これで大丈夫、南原は安堵して渋谷を離れました。

  ですが、翌日大学の正門掲示板に南原とミューの写真が
  掲げられていたのです。
  数十人の学生がそれを面白可笑しく批判する騒めきは、
  南原には最早聞こえませんでした。
  理事会に呼ばれ、真偽と仔細を尋問されます。
  南原は謝罪、辞表を提出し、受理されました。
  学長室を後にする南原に後悔の念は感じられませんでした。

  その日の夜、南原はミューに出来事のあらましを説明し、
  「ごめんね、全部私が悪かったのです」
  と深々と頭を下げた。
  「大学やめちゃったの?」
  「私にも恥の観念はあります。でもねそんなことはどうでもいいことです、
   私だけならまだしも、君を傷つけてしまったことが残念でなりません」
  「ちょっと待って、それってどういう意味なの?」
  「君の裸体が学生たちとはいえ公衆の目にさらされてしまった。
   どんなことでも償いますから、叱ってください」
  「何言ってんのよ、あたしなんかどうでもいいじゃんか、何、償うって」
  「若い君の将来を傷つけてしまった罪は重い。
   許されることじゃない」
  「信じらんない、あたしがグルだってこと疑わなかったの?」
  「え?」
  「あなたはバカよ、そんなのあたしが協力しなきゃ写せる訳ないじゃない、
   そんなことも疑わなかったの?」
  「はい、疑いませんでした。いいえ、それを知ったとしても、君に罪はない、
   君を傷つけてしまったことにかわりはありません、悪いのは全て私です」

  血相を変えてミューは部屋を飛び出していきました。
  口を付けていないコーヒーカップから幽かに湯気がたゆたっていました。

  その翌日、警察からの呼び出しがありました。
  ミューが自首し脅迫事件が明るみに出、犯人はすべて逮捕されたとのこと。
  「彼女は、服役しなければならないのでしょうか?」
  刑事もあきれる質問を南原はしました。
  「あなたには被害者意識がないのですか?」
  刑事が問います。
  「正直ありません、私には当然の罰だと思っています、しかし、彼女に
   罪はありません、悪いのは彼女を誘惑した私です」
  ますますあきれた刑事は、
  「自首ですし、捜査に協力してくれましたことと深く反省していることを
   考えますと、すぐに釈放されると思いますよ」
  そう親切に予測を教えてくれました。

  数日後、警察署の前に、ミューと警察官の姿がありました。
  膝まではねかえるような激しい雨がふっていました。
  「傘貸してやろうか?」
  警察官が訊きました。
  「いいえ、濡れて帰ります」
  そういってミューはお辞儀して警察署の入り口まで
  濡れながらとぼとぼ歩きます。
  水の中を泳ぐような雨の滴が、視界を薄紫色に霞めてゆくその先、
  黒い影がひとつ佇んでいました。
  「待っていましたよ、お帰りなさい」
  「せ、先生!」
  「よければ、私のところにしばらく居てくれませんか?」
  涙が視界をいよいよ晦ませ、からだの底から押しよせる激情がミューの声を
  消し去りました。
  「傘もってきました、はいどうぞ」
  差し出す南原の右腕をすりぬけたミューは南原に抱きつきました。
  「要らない、一緒に入るから」
  「はい、帰りましょうね、しばらく私の家に居てくれますか?」
  「しばらくなんて、ずっと居ていい?」
  「はい、ずっと一緒にいてください」
  「もうー、ホントに鈍いんだから、先生、アタシプロポーズしてるんですよ」
  「え?そ、そういうことは、いや、ということは…」
  狼狽する南原の声はミューのくちずけに消されました。
  ながいベーゼが続き、
  「ミューさん、私と結婚してください」
  返事は書くまでもないですね。
  

 
         もうひとつの心が
         わたしのなかにある
         それは人恋しさに
         いつでもふるえている
         心にしまい込む
         悲しみの数を
         数え疲れたときは
         ただたちすくむだけ
         こんな日はいますぐに
         あなたに会いたい

         もうひとつの季節が
         わたしの中にある
         それはひととの出逢いや別れを
         かわりゆく
         わけもなく疲れて
         町の騒めきに通りすがりの優しさ
         求めるわたし
         こんな日はいますぐに
         あなたに会いたい

                         ティナ

                弘兼憲史 黄昏流星群より



  
  
  
  
  
2009 08/30 18:55:06 | none
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金曜の夜帰る

   白い長椅子で横になり
   BlondieのMariaを聴きながら
   大沢在昌の天使の牙を読んでいたら
   ヒロインの神崎はつみがどうしても
   だれかに似ている気がしてきて
   気になって気になって
   どうしても思い出せない時に
   ふと窓辺の
   うすくれないに小さな花をつけた木瓜の小鉢を見つけたら
   約束を思い出したんだ
   小説は
   まだ2章しか書けていなかったけど
   ひょんなことで思い出しちゃって
   まったりもしてられなくなってさ
   ヒロインがだれに似ているかなんて
   すっかり忘れちゃって
   煙草をくわえながら
   メールボックスをくまなく探したよ
   どこかにあったはずさ
   見逃さないようにひとつひとつ件名を読みながら
   見つけた時には日が暮れていた
   そうだったね
   君だったんだね
   似てたんだ
   はつみがもっていた容姿ではなく
   あらがえなかった彼女の月日が
   君に似てたんだ
   だから
   君と
   そんなにはっきり
   約束したわけじゃないけど
   スターリングZippoで火をつけて
   深く吸いこんだ紫煙がまどろむと
   肩の力が抜けたみたいにさ
   なんだか無性に逢いたくなってきて
   胸がうすくれないに満ちあふれ
   マフラー巻かなきゃね
   外は今夜も冷えている
   煙草とライターと鍵と皮の手袋
   ステューシーのダッフルコートを羽織って
   あわてない
   ゆっくりとゆっくりと
   満ちてく月でも見上げながら
   金曜の夜帰る

    だいじょうぶだよ   
     ふところのナイフは研いでないから
2009 08/16 11:48:18 | none
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  「花岡ジッ太、14歳、5月13日生まれ、B型、独身、何故か子供がふたり」

  中学1年の春、
 初めての生徒会立候補立ち会い演説会は、
 春光ふりそそぐ運動場で、
 3学年36クラスのべ1620名の生徒の前、
 壇上にのぼった2年生の第一声がこれでした。
 失笑と痙笑が揺れながら波状に伝染し、
 絶笑へと変ずるのに、
 数秒も要しませんでした。
 立候補者はそれから公約らしきものを論じたと推測しますが、
 記憶にのこっていません。
 彼は、勇躍、当選し、
 2年生にして生徒会長に選出されました。

 翌年、再び彼は生徒会選挙に立候補しました。
 昨年同様生徒会長候補でした。
 2年生になっていた私もふくめ全生徒は、
 恍惚とした期待にふるえていたでしょう。

 「花岡ジッ太です、ぼくの持ち時間は5分です。諸君、隣同士で私語雑談してください、
  僕は何もしゃべりません」

 彼は宣言どおりまったくなにも喋りません。
 最初の1分は、
 多量の溜息が広い運動場に湧き、
 大気を歪めるうめき声となりました。
 次の1分以後、
 彼の目的に気付いた生徒たちが目笑に感嘆を帯びさせ、
 絶笑にはぜました。
 冗談やない、立候補してなにも喋らんとはなにごとか、
 そう注意する教師もいず、
 陶然とした笑いをうかべる始末で、
 ながい3分間、
 3300の瞳が彼を見守っていました。
 彼は記録的票数を得て再選しました。

 漫画のように思えるでしょうけど、
 実際に起こった風景です。
 彼がどのように生徒会長を2年つとめたのか、
 覚えていません。
 ソツのない無難な所業ほど、
 印象に残らないものですから、
 彼は申し分のない生徒会運営をつづけたのでしょう。

 今思い出せば、
 彼の風貌は小泉元首相に似ていました。
 そう、
 あの系統の顔は、
 こういう人の度肝を抜くような発想に秀でているのでしょう。

 何かやってくれる、
 何か驚かせてくれる、
 そういう期待は、
 政治に関係なく
 私たちの日常的な内からふくらんでくるものです。

 さて、3年の春、
 彼のいない生徒会選挙が行われました。
 開票後、
 選挙管理委員会から36名の担任教師に
 緊急の文書が渡されます。
 「今回の選挙は無効となりました。
 無効票の数が1000を超えています。
 立候補者の名前をきちんと筆記するよう宜しくご指導下さい。」
 中学校創設以来、
 未曾有のできごとでした。
 学校側としても座視できず、
 指導者としての能力が試されているかのようでもありました。

 教壇に仁王立ちする担任は私たちに下問しました。
 「『バットで頭を殴るのは危険だ』これ書いたん誰や!?」
 「僕です」
 ひとりの生徒が立ち上がりました。
 「『すけべえと変態は違う』これ書いたん誰や?」
 「僕です」
 「『ジュリー』これ書いたん誰や?」
 「わたしです」

 この調子で、担任はクラスの無効票の筆記者を特定していきます。
 私も立ち上がり、
 ジロリの一瞥をいただきました。
 人の怒気というものは、
 その表情から読み取り伝わるのか、
 表情を読んだあとの内なる状況分析によって生じるのか、
 そのころの私には解っていませんでしたが、
 一瞥から投げつけられた余韻は重く冷たいものでした。
 私が投票用紙に書いたのは「なし」です。
 選ぶ候補がいないから、なし、と書きました。
 興味深いことに、
 白紙の無効票はほとんどなかったようです。
 要するに、
 皆、投票用紙を無駄にはしなかった、
 何かを書いて意識的に無効票としたのでした。

 45名中、38人の無効票の投票者を特定し終えた担任の憤りは、
 南東に面した教室の窓ガラスをふるわせるくらいでした。
 「先生、どうして無効票がいけないのでしょうか?」
 こういう素直な疑問を呈せなかった私は、
 他の生徒同様に不服ながら、
 担任の説教をだまって聴きました。

 1週間後、投票がやり直されます。
 今度の無効票は300。
 有効票が過半数を超えたという判断が選管でなされ、
 生徒会長と生徒会役員が選出されました。

 生徒である以上、投票するのは義務である。
 拒否は許されない。
 無効票を投ずる事は校則違反である。

 そこらじゅうで今も耳にする理論ですね。
 本当にそうなのでしょうか?
 腑に落ちなかった私は生徒手帳にある校則をくまなく探しました。
 ですが、無効票を投じてはならない、という規定はありません。

 花岡ジッ太が立候補していれば、
 このような椿事は起こらなかったでしょう。
 彼がいるのといないとのどこが違うのか。
 それは生徒たちがいかに彼に魅力を感じたかによるでしょう。

 真面目が悪いのではありません。
 公約が悪いわけでもありません。
 では何が悪いのか?
 魅力がないことが罪だったのです。

 小泉が安倍に首相の座を譲り、
 福田を経て麻生が総理大臣となりました。
 さて、
 皆様、
 14歳の私が感じた空虚な飽和感を感じませんでしたかここ数年?
 私は感じているのです。
 魅力のない者を選出するのは辛い事です。
 小泉の政策が悪いとか、
 どこそこがいけない、
 とかの批判は簡単です。
 文句があるのなら、自民党に投票しなければいい。
 投票しなければ、
 自民党がしでかす数々の失政失策に責任を感じることはありません。

 投票という行為は、
 責任を持つということを自覚し、覚悟しなければならない、
 と私はつねづね考えています。
 国政に参加するという行為は、
 投票する行為だけで果たされるものではなく、
 選出した政党や政治家に対しても責任を持つということでなければなりません。
 
 国民の義務だからという、
 しかつめらしい優しい論理に耳を貸さないでくださいね。
 そう言う人たちは憲法を理解してはいません。
 それこそ、
 国は国民によって成り立っているという絶対的論理を
 ねじ曲げて解釈する佞論です。
 投票する政党も議員候補もいないのに、
 無理に意中ではない者に投票する行為を、
 国民の義務だと平気でのたまう頭脳構造を信じないようにしましょう。

 選ぶべき人がいないのだから投票しない。
 それは、
 当然の権利であるべきであり、
 何と言われようが誤ったことではありません。
 絶対的真理は、
 いかなる利便や事情に左右されてはならぬものです。

 投票率が50%に満たない選挙は無効です。
 しかし、
 現実はそれでも当選者が出ている。
 過半数の国民が選出しなかった候補者に、
 国民代表の任を与えるわけにはいきますまい。

 選挙で議員が選ばれないと、
 国会が成り立たなく、
 緊急の立法が行えない、
 と発言する議員がいました。

 そうでしょうか?

 一度も選挙が無効になった経験のないあなたに、
 どうしてそうなると断言できるのでしょうか?

 私は一度は、このような未曾有の混乱があってもいいと考えています。
 そうしなければ、
 日本の政治は変わりはしないとずっと思案していました。

 しかし、今回の選挙でも、
 無効票や投票しなかった有権者の意思は無視されるでしょう。
 そして投票した有権者たちも、
 撰んだ議員に責任をもちはしないでしょう。

 何故、責任をもとうとしないのか、
 何事かを選るという行為には、
 何度でも書きます、
 大変な責任が生じます。
 責任が嫌なら、撰ばなければいいのです。
 撰んでしまった以上、
 選んだ人には、重い責任を担わなければなりません。
 それが国政参加であり、
 屁理屈論者が謂うところの、
 国家への意識でしょう。

 以前、私は「大義の春」という作品を書きました。
 そこで成田紛争のことについて色々と私見をのべました。
 福田内閣下に於て行われた恥ずべき強制執行には、
 福田総理をはじめ自民党に投票したすべての有権者にも責任はあるのです。
 それを自覚できないからこそ、
 選んだ人が悪政をおこなっても陰で批判するしか出来ない事になってしまう。
 では、自民党を選んだ全ての有権者に成田における数々の残虐行為を
 正当であったと賛同しないまでも反対しない旗幟の鮮明さがあるのなら、
 私は何も言いません。
 あの残虐行為は、自民党を選んだ全ての有権者の意思であったのですから。

 撰んだ者への諌言は必要ですし、欠かすことの出来ない自浄機能です。
 しかし、選らなかった者たちへの懺悔も忘れて欲しくはありません。
 なぜなら、そういった責任転嫁や責任回避こそが、
 現在の政治の腐敗を招いているのですから。

 小泉純一郎、
 わくわくさせてくれる政治家でしたね。
 しかし、
 私は小泉以前も小泉以後も、
 それどころか、この33年間、
 自民党議員に一票を投じたことはありません。
 自民党政権を許せないからです。
 
 あるいは政権奪取を成し遂げるかもしれない民主党も嫌いです。
 鳩山、管、小沢、執行部は元自民党員ばかりだからです。

 私は騙されません。

 花岡ジッ太のような、一般庶民が気軽に立候補できるような、
 そんな国にならないものでしょうかね。

  満面に笑を、トゥース!
  
 
2009 08/09 23:00:50 | none
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