通説にとらわれない新しい歴史解釈
 意外なことであるが民主主義では日本よりはるかに長い歴史を持つ米国の憲法には「主権在民」や「拷問の禁止」の規定がない。
これらのアイディアをGHQは元東大教授の高野岩三郎や憲法成立史研究家の鈴木安蔵ら六人のメンバーからなる憲法研究会によって作成されGHQに提出された「憲法草案要綱」から採り入れたことは明らかであるが、実はこれらの規定は明治時代に大日本国憲法が制定される以前に民間において盛んに作成された私擬憲法草案にその源を発しているのである。

「マッカーサーやホイットニーの指揮の下で、新憲法に採り入れられた諸原則の多くの概念に寄与した者は、十九世紀の民主的傾向を持つ指導者たちを引き継いだ日本のインテリたちだったのである」とケーディスは後年回顧している。(日本国憲法制定におけるアメリカの役割 竹前栄治ほか著『日本国憲法・検証 第一巻』 小学館文庫)

「今日発掘されている明治憲法以前の憲法構想は五十以上あり、そのほとんどが明治憲法よりデモクラティックなものであった。」
それらの中から憲法研究会のメンバーであり憲法成立史研究家の鈴木安蔵が取捨選択して「憲法草案要綱」に蘇らせたのである。鈴木は著作も十冊を超える憲法成立史研究の第一人者であった。鈴木安蔵は、民権期の憲法案二十余りを参考にして研究会案を作ったと述べている。

例えば明治の自由民権家の植木枝盛案での「日本国ノ最上権ハ日本全民ニ属ス」は「日本国ノ統治権ハ国民ヨリ発ス」(憲法研究会案)になり、これが日本国憲法では「主権は国民に存する」となっている。
第三十六条「公務員による拷問および残虐な刑罰はこれを絶対に禁止する」は研究会案では「国民ハ拷問ヲ加エラルルコトナシ」であり、その源は植木案清書本の第四十八条「日本人民ハ拷問ヲ加エラルコトナシ」である。

 憲法研究会の初会合は1945(昭和二十年)十一月五日、高野岩三郎、杉森孝次郎、森戸辰男、室伏高信、岩淵辰雄、鈴木安蔵、馬場恒吾で完成した草案に署名した。高野は元東大教授であり鈴木は憲法成立史研究者であった。
1945年十二月二十六日、できあがった憲法研究会最終完成案「憲法草案要綱」は、杉森孝次郎と室伏高信と鈴木安蔵によって首相官邸へ届けられ、さらにその帰途、もう一通が新聞記者室に発表された。
 GHQ民生局では、念には念を入れて平素使っている連合翻訳局(ATIS)での翻訳に着手することにした。政治顧問事務所(Polad)でも本格的に翻訳させることにした」

最高司令官附合衆国政治顧問ジョージ・アチソンはその草案を首相官邸から取り寄せ、その大要を政治顧問事務所で英訳させた。
アチソン政治顧問が、「憲法草案要綱」を知らせるために本国の国務長官に緊急の書簡を書いたのは、終戦の翌年、1946(昭和二十一)年が明けたばかりの、一月二日のことであった。
「著名な法律家、学者、政事評論家からなる私的な研究者集団である憲法研究会によって、1945年12月27日に幣原首相に提出された憲法の翻訳を同封することを名誉に存じます。(Hussey Papers Reel No.5)・・・」

アチソンは、日本国内で発表された「ある私的な研究者集団」の憲法改正草案が、第一条「日本国の統治権は日本国民より発す」をはじめ、きわめて注目すべき内容であることを報告している。彼は、「さらに重要なことに、最高統治機関は議会・国会に責任のある内閣となっており、天皇は儀礼的・形式的長官にすぎないと規定されている」と興奮気味に伝えている(Hussey Papers, Reel No.5 国立国会憲政資料)

憲法研究会案「1.日本国の統治権は日本国民より発す」
「2.天皇は国政を親らせす国政の一切の最高責任者は内閣とす」
「3、天皇は国民の委任により専ら国家的儀礼を司る」の核心を、余さず受け継いで成立している。
憲法研究会案の国民主権の宣言規定、政治的権限を有しない天皇、儀礼的存在としての天皇規定は、」すでに見たように、自由民権期植木枝盛案・土佐立志社案に由来している。つまり日本国憲法は、その核心をなす国民主権の宣言規定、政治的権能を有しない天皇、象徴的存在としての天皇規定の起源を、民権期植木案と立志社案にもっていると言えるのだ。

日本国憲法は、アメリカによって輸入され、押し付けられた、日本人の思想と乖離した法典では決してない。むしろ、明治以来の日本の伝統的なデモクラシー思想が、日本と総司令部双方の努力によってついに結実したものと見るべきなのである。日本国憲法の核心部分は日本人が生み出したものである。このことを忘れてはならない。(P163)」
(参照文献 憲法「押しつけ」論の幻 小西豊治 講談社現代新書)

2011 04/29 13:21:16 | none | Comment(0)
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