2008年 09月 24日 の記事 (1件)


テニスコーチの場合:

もし自分が日本に暮らす25歳未満で子どものテニスコーチになりたかったらまずアメリカに行くでしょう。ロスかフロリダがいいかなあ。公営のコートが沢山ある所にラケットとボールをもって行って、自分の首に札をかけます。“Let Play Tennis!”と書いて。子どもでも大人でもそういう場所には人数が足りなかったり、相手が遅れていたり、先に帰っちゃったり、友達は疲れちゃったけど自分はまだプレーしたかったり等々、必ず消化不良のテニスプレーヤー達がいます。そういう人たちに声をかけたりしてコートに入れてもらっちゃいます。(日本ではこれがほぼ出来ない)プレーが終わってその人から連絡先を訪ねられたり、次回の約束ができればまずは第一関門突破。現地でテニス仲間を増やしていき、その人たちに自分は子どものコーチを目指している事をアピールします。

必死のバイトで貯めた限りある資金(日本ではこれは出来る)しかないのでコートから遠くても安いモーテルに泊まり、食事はスーパーのサンド、バナナ、ヨーグルトでつなぎ、毎日いっぱいテニスやって、いよいよ誰かから紹介されたか、声をかけられた子どもと二人でコートに立つ時、初めて自分が試されるでしょう。もちろん言葉は通じません。テニスコーチに問われる資質は色々ありますが、勉強するべき事は沢山ありますが、まずはリラックスしてその子とプレーします。子どもが夢中になってボールを追いかけ、以前よりいいプレーができて(させてあげて)盛り上がったり、ハイタッチが何度もできたりして、最後はぎりぎりのボールを取らせてその子のカウンターで勝たせてあげたりして親の元へ帰します。

後日、もしその子がまた自分とプレーしたいと思い、親がコートに連れて来てくれたら第二関門突破。日本で言えばまだまだ見習い未満ですが、少なくとも自分はその子に選ばれ、親は多少ながらも子どもの変化ややる気を感じたという事でしょう。その日の夜、アメリカに来てはじめてビールが飲めます。一本だけ。つまみはなし。(私は飲めませんが)

☆ここまでのタイムリミットは観光ビザギリギリの3ヶ月。

一人の子どもがやる気満々で楽しそうに自分とプレーしていれば、それは周囲に対して自分の実力をアピールしている事になります。あちらの方達はスポーツに限らずいいものに対しては素直に反応し、(無関心な人間はどこにでもいますが)自分の子どもがテニスをやっていれば知らない日本人であってもパフォーマンス重視。先入観を持つ事なくしっかり見てくれます。さらに認められれば積極的に声をかけてきます。言うまでもありませんがそこで声をかけてもらうために必要な物は資格ではなくコートで見せる実力です。

主役はあくまでも子どもですが、テニスコーチにとってコートはどこであっても最高のステージです。そのステージがいつも輝いていれば、輝かせる為の努力を惜しまなければ、自分とプレーしたがる子どもは二人になり、三人になるかもしれません。そしてようやく親からチップをもらえる日が来るでしょう。

向こうの小学校は午前中で授業が終わる事が多いのでスポーツをやる時間は日本より多く、時間を調整すれば沢山の子どもとプレーできますがテニスの基本は一対一。暗くなると無料だったコートに照明代がかかります。レッスンは最低でも1時間は必要なのでやがてスケジュリングが難しくなります。

☆ここまでのタイムリミットも観光ビザギリギリの3ヶ月。

3度目のアメリカ(笑)。悩みながらも自分はコーチになりたい訳ですから、このあたりからチップを払う親の子どもを優先的に見ていくべきでしょう。コーチは物売りではなくどちらかと言えばサービス業なので、より高い評価を頂ける方を優先しない訳にはいかないでしょう。ここまでくると物語の展開は早くなります。1レッスンの単価は低くても週単位で約束してくれる人、月単位で交渉してくれる人、近くのコートで自分と同じような事をやっている怖い外人コーチからの脅し、最初にプレーした子どもの親からもらった自転車は盗まれるでしょう。

自分は周囲に対して最初からはっきりと子どものテニスコーチになりたいと言ってきたのに、コートの外から「何時から金を取るようになったんだ!」といきなり見覚えのない親から怒鳴られたり、変な噂を流されたのか、知らない子どもににらまれたり。。。ようやく宿泊費ぐらいは稼げるようになってきたのに子どもの数は減り始めます。約束の時間になってもコートに現れない。連絡もしてくれない。それでも自分とプレーしてくれる子はまだ何人かいるのに、大人達に対するいらだちはストレスとなり、コートでテニスに集中できなくなる。ここですべてを投げ出して日本に帰らなければ第三関門突破(笑)。

自分は日本から来たラケットしか持っていない若者だと言う事はみんなが知っていたので、週末は誰かの家で夕食をごちそうになっていた。自分に美味しいご飯を食べさせてくれる親から子どものレッスン代をもらうのは気が引けたが、ほとんどの家ではごちそうになったからと言ってレッスン代を拒否するとおこられる。その為に夕食に誘った訳ではないとまるで親のように説教しながらデザートを出してくる。

8人いた子ども達(自分の生徒?)は3人になったがこの子達は近所のテニスアカデミーで選手として毎日夕方から練習していて、自分は週二回、練習前のヒッティング専門。レッスンではなく、熱心な親からリクエストをもらい、その通りに子どもと打ち合うだけ。一人は9才、二人は10才だが、かなり上手いのでこちらもサーブとリターン以外は本気のプレー。

後から気付かされることになるが、熱心な親はつねに子どもに何が必要かを熟知していて、先読みも出来る。人のうわさ話やコーチの経歴等には無関心。自分の立場は、部分的であってもその時その親が子どもに必要だと感じる何かを提供できていればいいだけ。プレーに対してこちらから何度か提案するも拒否されることはなく、ほとんどの場合よりいい提案を返してくる。(その時はまだ理解できていなかった)

第一部終わり。
2008 09/24 12:18:41 | none | Comment(0)
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