通説にとらわれない新しい歴史解釈
 2・26事件は事前に予知されていた。憲兵曹長の小阪慶助は二月十九日の朝、栗原中尉一派が二十五日頃を期して重臣襲撃を決行するという三菱本館秘書課からの情報を受け、憲兵隊本部に報告している。(2・26事件 高橋正衛著 中公新書)
また事件当時、陸軍省軍務局課員であった片倉衷(ただし)少佐も「一週間ほど前にわかっていました」と証言している(未公開写真に見る 2.26事件 新人物往来社)
 ではなぜ、10月事件のクーデター未遂事件のときのように事前に首謀者を拘束したり、せめて実際に青年将校たちが重臣を襲撃する前に阻止しなかったのだろうか?
 中国や英米に対して融和的な方針だった皇道派は統制派にとって邪魔な存在であったから、皇道派の青年将校達は皇道派を一掃するために巧妙に利用された疑いがある。実際2・26事件の責任を問われて真崎甚三郎大将をはじめとする皇道派の主だった将官は陸軍の中枢からはずされてしまった。
 「露支英米との間一触即発して祖宗遺垂の此の神洲を一擲破滅に堕(おとしい)らしむるは火を睹(み)るよりも明らかなり」(蹶起趣意書)
という危機的状況から何とか日本と日本国民を救おうとした青年将校たちの思惑とは逆の結果をもたらし、対中国強硬派の統制派の天下になってしまった。フランスのある新聞は「日本は国内改革に失敗したので、今後中国への侵略を強めていくであろう」と予言した。
前年に結婚したばかりの身重の妻を残して刑死した青年将校の一人田中勝中尉は子供の頃から慈悲心が強くその母親は息子が昭和維新運動に関わっていることを心配していたが田中中尉は母親に「今度戦争が始まったらね、一カ国や二カ国じゃあないよ。日本は負ける。それが悲しゅうて、苦しゅうて。戦にならぬようにしなければいけない」と言っていたそうである。これは「日米戦は必然的に第二次世界大戦へと発展する」という北一輝の予言と一致しており、青年将校達は日本の破滅を正確に見通していたというべきであろう。(参照文献:昭和聞キ語リ 毎日新聞西部本社編 葦書房)

 皇道派の荒木貞夫大将は日本軍がシンガポールを陥落させた直後の昭和十七年に「支那に大軍を残しながら、日本はアメリカと戦争をしている。また、四方八方に戦線を拡大しているが、そのタコの足を一本ずつ切断されて、日本はダメになるだろう。日本の前途は絶望的である」と語ったそうである。
真崎大将の場合も、『オレの目の黒いうちは、支那との戦いはさせない』と主張していた。真崎がいたのでは、陸軍内部の主戦派は支那事変を起こせない。そこで、軍務局長永田鉄山少将・辻政信少佐らが、二人の追い出しを画策した。永田や辻に代表される陸軍の統制派は、元老・西園寺公望やその秘書の原田熊雄に、『荒木と真崎が青年将校を煽動してこまっている』と吹き込んだ。西園寺は、戦争学にはうとい元老政治家だったが、権力だけは大きなものを持っていたから、真崎大将は二・二六事件との無実の関連をでっち上げられ、陸軍中枢から追われるのである。無益な支那大陸での戦争へ突き進む軍部への歯止めはこれで失われてしまった」(悪の戦争学 倉前盛通 太陽企画)

事件後青年将校達が首班に担ごうとした真崎甚三郎陸軍大将の実弟であった真崎勝次海軍少将も次のように陰謀の存在について言及している。

「この事件が単なる派閥や勢力争いでなくもっと深いところに原因していることだけは確かで、この事件の真相を知らずに現代の世相を知ることは困難だ」(罠にかかった真崎甚三郎)「一世を騒がせた二・二六事件についていえば、日支事変を起こさしめ世界戦争に誘導して日本に革命を起こすのに、一番邪魔になる人物を葬り去ることが、あの事件のソ連のネライであった。今日でもこのことを本当に研究しているものはまずない。真に思想を了解し世界の動向、ソ連の陰謀を洞察して、前途を警戒し国内における各種のクーデター事件に反対し、満州事変を拡大せぬように処置した人物がおっては、日本に革命を起こすことも出来ず、日支事変を起こすこともできない。そこで日支事変を起こすのに邪魔になる重要人物を葬るように仕組んだのが二・二六事件の筋書きである」(雪の首相官邸の秘密)

青年将校の一味であった山口一太郎大尉も陰謀の臭いを強く感じていたようだ。

「僕はどうも謀略がなかったらあれは起こっていなかったのじゃないかと思う。元をただせば根深いものがある。まず、あの事件前数ヵ月というものは、事件が起きるように起きるようにともってきている。士官学校事件で青年将校を悲憤させた、また、それまでずっと留め男の役をしていた柳川平助中将を突然、台湾に追いやった。次に青年将校に同情的な見方をしている持永浅治少将を朝鮮に送った。また、青年将校の精神的指導をしていた菅波三郎、大岸頼好、大蔵栄一等のような青年将校の行動を思い留ませる連中を皆遠くにやった、そして逆に香田清貞や栗原等のような事をやりそうな連中を満州から東京へ呼び寄せている」(汚濁の世に雪の日を語る座談会 日本週報 二九・一ニ、一五号)以上、「ニ・ニ六事件の謎」大谷敬二郎著 光人社NF文庫より抜粋)

2009 07/09 20:16:13 | none | Comment(0)
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