エッヘン

2006年 01月 27日 の記事 (1件)


アナログハイビジョンの失敗
ちなみに、現在「ハイビジョン」と呼ばれているものは一般的にデジタル方式のハイビジョンのことを指しており、名前は同じでもアナログ方式のハイビジョンはアダプタを取り付けないとデジタル方式のハイビジョン放送を視聴することができないため、両者は基本的には互換性の無いものと言える。
 当初の構想から約30年もかけ、さらにNHKだけで合計290億円、さらにメーカーも合わせて8,000億円から1兆円(福山 1997)とも言われる巨額の研究開発費がアナログ方式のハイビジョンには注ぎ込まれた。にもかかわらず、予測と異なり国際標準化にも普及にも失敗してしまったのはなぜなのであろうか。
 その原因として、おおまかには当時の欧米との貿易摩擦、明確な移行スケジュールが見えなかったこと、そしてソフト不足が挙げられる。
 まず、貿易摩擦は1960年代の繊維に始まり、1970年代の鉄鋼、テレビ、工作機械、ビデオテープレコーダー(VTR)、1980年代の自動車、半導体・ハイテク分野と、産業構造の高度化につれて貿易摩擦品目も高度化していった。当時は大手商社の幹部が「シェア5%を越えると米企業から電話がかかり、10%を越えると反ダンピング提訴などの攻撃が始まるのが日米摩擦の法則」(吉岡 1989a)であるというほど激しかったと言われている。
 その中で、カラーテレビについてはスティーヴン・D・コーエンによれば、1971年から1977年の間に米国のテレビ産業で60万人以上の失業者が発生し、そして国内メーカーは20社から5社に減ってしまった。そして、1980年に米国政府はテレビダンピング訴訟と不正輸出訴訟について、日本のメーカーが670万ドルを支払うことで決着したのであった(Cohen 1991=1992)。
 ハイビジョンはNHK主導で行われ、日本メーカーもその開発に参加してきた。それがゆえに、ハイビジョンが国際標準になれば、世界のテレビ市場において日本メーカーが優位な立場になる。そのことによって、日本からの輸出がさらに増えて自国のテレビ産業などが打撃を受けてしまうと警戒してしまったことが、ハイビジョンが国際標準を握ることができなかった原因と考えられる。
  そして、将来のテレビの主流が何になるのかが分からず、消費者が混乱したことも原因として考えられる。この将来のテレビの主流についてテレビ放送の監督官庁である郵政省は明確な移行のスケジュールが示すことができなかったのである。これまで郵政省はハイビジョンを推進してきたけれども欧米のデジタル化への動きが本格化する中で日本もデジタル化へ転換しようとしたものの、調整に難航して結果が出てくるまで3年もの時間がかかってしまった。そのために消費者にはアナログ方式のハイビジョンがこれから主流になるのかどうかが見えて来ず、混乱を招いてしまった。結局、アダプタを取り付けるだけで対応できるとは言え、デジタル化へ方向転換の決定が遅れた分だけ余計な負担を強いられることになった人が増えてしまった。このように普及に向けた政策がいくら行われても、今後テレビ放送がどのように行われるのか、そのはっきりとしたスケジュールが見えてこなければ普及は進まないのである。
 また、それに関連して実用化試験放送の段階にとどまってしまったために高価な受信機を購入しても、それに対応したハイビジョン放送はわずか1チャンネルであり、かつ1日のうちの限られた時間(1991年からの試験放送は7〜8時間、1994年からの実用化試験放送では10時間程度)しか行われなかった。そのため消費者にとって高価な受信機を購入するに値する魅力が無かったことも原因として挙げられる。ワイドクリアビジョンが普及しなかったことも同様にソフト不足が原因であり、放送局側にはワイド画面向けの番組ソフトの蓄積が無く、さらにアスペクト比4:3の画面のテレビを利用している大多数の視聴者にとってはワイド画面での放送は上下に黒い帯が入ってしまい、視聴者から苦情が来ることを警戒していたこともあったためなのか、結局、ワイドクリアビジョン放送は映画など年間数本にとどまったのであった(ウィキぺディア 2004b)。そのため、ワイド画面の受信機の利用者は大半の時間は両横が黒い帯が入った、もしくは横に間延びしたような画面を見させられる結果に終わってしまったのである。テレビの魅力は映す受信機側だけでなく、映す中身であるソフトの魅力も重要な要素である。当初は高価であっても、その受信機の機能が活かせる放送が多く行われていれば、もしくは行われていくことが明確に見込まれていれば消費者がそれを魅力に感じればもっと普及していたのかもしれない。

集中しすぎですよ・・・あせらずに のんびり 生きましょ。
2006 01/27 21:41:58 | 何故の解明 | Comment(0)
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